こんにちは。今回のフィールドレビューを担当いたします。博士課程の朱です。今回は中国のテレビ・ドキュメンタリーと日中共同制作についてお話ししたいと思います。
日中におけるテレビ・ドキュメンタリーの共同制作の歴史は1970年代末までさかのぼることができます。多くの方々がご存じかと思いますが、1980年からNHKにて放送された『シルクロード-絲綢之路(しちゅうのみち)-』(1980-1981)が大ヒットして、日本においてシルクロードブームまで引き起こしました。この番組を皮切りに、NHKとCCTV(中国中央電視台)が多くの番組を共同制作の形で制作してきました。
このような共同制作は、中国のテレビ・ドキュメンタリー史においても大きな意義があります。今回はこれまで多く語られてきたNHKとCCTVによって制作された番組ではなく、TBSとCCTVが長城をテーマに制作した番組についてお話ししたいと思います。
1991年11月に放送された『萬里の長城』(TBS)という番組は日本では高い視聴率を獲得し、多くの方々がご覧になったと思います。この番組はCCTVとの共同制作で、同じ時間に中国では『望長城』(CCTV)というタイトルの番組が放送されました(*同時放送は第1回のみ)。この『望長城』はのちに中国のテレビ・ドキュメンタリーの草分けと言われた番組です。
1990年代までの中国のテレビ・ドキュメンタリーはまだ宣伝映像の色が濃く、現在の通念上のドキュメンタリー番組とはある程度、距離があったと言えます。『望長城』まで、『長江を語る』(1983)や『歴史が未来に告げる』(1987)など、当時では優れていて、好評を得た番組もありましたが、こういった番組は現在のドキュメンタリーとは違って、「作家テレビ」と言われていました。作家が先に脚本を書き、その脚本に基づいてカメラマンが適切だと思われる「絵」を撮って、そして、編集の段階でその「絵」にナレーションや音楽、音などをつけて、番組を構成することが「作家テレビ」の特徴です。
『望長城』はそれまでの「作家テレビ」の形を打破して、テレビ・ドキュメンタリーの制作に新しい方法論をもたらしました。『望長城』は作家による脚本ではなく、実際に撮れた映像と音声を中心に構成されました。また、従来の「作家テレビ」と言われるドキュメンタリーでは現場の音声がほとんどなく、ナレーションがメインでしたが、『望長城』では現場でとれた音声を重視して、普通の人々の生の声をそのまま電波に乗せて放送しました。こうした制作の方法論は、TBSの『萬里の長城』とよく似ていると言えます。
『望長城』は中国のテレビ・ドキュメンタリー史において重要な位置を占め、中国ではその内容や方法論で見られた変化に関する議論も数多く見られました。しかし、そこに現れた変化と『萬里の長城』との共同制作との関連性については、まだ詳しい議論がほとんど見られなかったです。今後は引き続き、『望長城』における制作の方法論の変化と日中の共同制作に関して研究を進めたいと思います。今回は簡単な紹介だけにとどめます。
最後に、『望長城』に着目したきっかけについてお話ししたいと思います。私が初めてTBSの『萬里の長城』を観たのは、TBSと丹羽研究室との共同研究プロジェクト「TBS×東大 テレビの学校」にてです。アーカイブに収録されている『萬里の長城』を視聴した後、たまたま機会があり、番組のプロデューサーの一人、大野清司さんとお会いすることができました。そこで初めて『望長城』の話を聞いて、興味を持つようになりました。
「TBS×東大 テレビの学校」プロジェクトは今年、冊子『TBSドキュメンタリー名作選』を発行しました。中には『萬里の長城』の番組情報も収録されています。国立国会図書館では閲覧可能なので、興味のある方はぜひご利用ください。
参考文献
孫玉勝,2012,『十年–従改変電視的語態開始』人民文学出版社.
楊偉光・黄望南・周経・蘇英編,1993,『望長城』中国広播電視出版社.