リアタイTVドラマのお楽しみ。

こんにちは。博士課程の森下です。TVドラマを見逃し配信で見ることが多くなりましたが、久しぶりにリアルタイムで見ているのが『続・続・最後から二番目の恋』です(フジテレビの番組をリアルタイムに見るのも久しぶりなので、連ドラと出資映画の長尺CM連打が新鮮。『かくかくしかじか』のヒット要因もここにあり?)。

出典:フジテレビ『続・続・最後から二番目の恋』公式サイト

丹羽先生もご覧になっているというこのドラマの大きな特徴はシリーズものであり、1作目は2012年1月クール、2作目は2014年4月クールと続き、そこから11年後の2025年4月クールに3作目が作られたことにあります。それも主要キャストやスタッフもほぼ変わらず、物語の世界観が11年経てもなお続いているのは、昨今のサイクルが短いTVドラマにおいては奇跡のようなことではないでしょうか。10年近く間をおいて物語が紡がれるというのは、映画では、リチャード・リンクレーター監督の「ビフォア」シリーズ(20代の『ビフォア・サンライズ』、30代の『ビフォア・サンセット』、40代の『ビフォア・ミッドナイト』とアメリカ人とフランス人のカップルの約20年にわたる会話劇。監督と主演2人による脚本)などがありますが、TVドラマでも月日の流れを作り手にも受け手にも心地よく感じさせることができることを、久しぶりに楽しませて貰っています。

1作目が始まった13年前から考えると、TVドラマを取り巻く環境は大きく変わりました。その頃、TVドラマは基本的にテレビ受像機で見るものであり、視聴の選択肢としては①リアルタイムに見る、②ハードディスクに録画して見る、③夕方や夜中の再放送で見る、④DVDをレンタルしてまとめて見る、などが挙げられます。TVerの見逃し配信は2015年開始なので、3作目から視聴環境が変わったと言えます。今や②や③は存在はするものの見逃し配信が取って代わるようになり、④にいたってはDVDレンタルのサービスそのものがほぼ消滅し、選択肢もあるようでない状況です。3作目が始まる前にTVerでは前2作の期間限定配信があり、昔からの視聴者だけでなく、新しい視聴者を獲得する可能性は、時間が決まった再放送を見るより広がったと言えるでしょう。TVerのお気に入り登録者数は、話題の『対岸の家事』よりも多い126.8万(6/2現在)と、今期のドラマの中では最大規模のようです。

また、全てがフラットに並んでいる配信番組一覧から見ていると忘れてしまいがちですが、リアルタイムに見ると意識するのが「放送枠」です。1・2作目は木曜10時の「木曜劇場」でしたが、3作目は月曜9時の「月9」に放送枠が変わりました。その理由は、渦中にあるフジテレビの大人の事情なのか、小泉今日子演じるTVドラマのプロデューサー吉野千明が定年前に月9の企画に向き合おうとしていることに関連づけているのか、定かではありません。しかし、月9の主演としてはアラ還の2人は異例すぎますし、ここ最近個人視聴率が低下している原因に放送枠を挙げている記事も出てきました。確かに「毎朝の習慣としてのNHK朝ドラ」「月曜から頑張って働くためのTBS日曜劇場」というように、ドラマの内容だけでなく放送枠を理由に視聴することはあるように思います。なので、このドラマが「月9より木曜劇場の方がしっくりする」といったTVドラマを見る上での肌感覚のようなものは、わかる気がします。このように、見逃し配信での視聴が当たり前になった今でも、放送枠が伝えるTVドラマの文化が残っていることを、改めて感じさせてくれます。

そして、シリーズを重ねる中で高まっているのが「聖地巡礼」ならぬ「地元愛」です。このドラマの舞台となっている鎌倉では、ロケ地巡りが1作目から盛んに行われていますが、3作目の今は、ロケ地の詳細が毎回放送終了後すぐにSNSにアップされ、そのスピードは格段に上がっており、翌日には実際にロケ地を訪れていたりします。というのも、中井貴一演じる長倉和平が鎌倉生まれの市役所勤めという設定からか、とにかくこのドラマ、地元民が喜んで見ていることがSNSでも身近なところでも伝わってくるのです。日常にある風景がこのドラマに映ることで愛おしくなるような、同じ鎌倉でも、江ノ電・鎌倉高校前駅横の踏切で繰り広げられている「聖地巡礼」とは異なる楽しみ方が、そこにはあるようです。 

1作目からよく登場する御霊神社の踏切。紫陽花のシーズンに突入し、観光客が更に増えている。境内撮影禁止の看板あり

登場人物それぞれの心の機微を丁寧に描いている脚本はもちろん、コンテンツとしての面白さも多くありますが、このドラマシリーズには、TVドラマのメディアとしての面白さも詰まっています。