ビヨンド・ザ・シネマ

こんにちは。博士課程の森下です。
突然ですが、最近映画館で映画を観ていますか?観ているという方の多くは、きっとシネコンで観ていると思いますが、近年、既存の映画館の枠組みにとらわれない、個性的な映画を観る空間が続々と誕生しています。その中で、私が最近訪れたユニークな場をいくつかご紹介したいと思います。

シネ・グルージャ(京都・舞鶴)
商店街に突如登場する六角形の建物。2019年オープン当初から、先ずカフェありき。カフェ/バー・Seisの中心にある防音シアター(天幕があり、ゲルのよう)が時折、映画上映やライブができる空間となり、お茶やお酒を楽しみながら鑑賞できる。フードもドリンクも凝ったメニューが並ぶ。鑑賞料金はソフトドリンク1杯込み1,500円、アルコール1杯込み1,800円、18歳以下は500円(ドリンクなし)。この料金形態のせいか、若年層も多いよう。上映作品はテーマで括られた2本または3本を各1日1回上映、大体2週間ごとにプログラムを入れ替えている。訪問したときはエリック・クラプトンのドキュメンタリーが漏れ聞こえてきたが、鑑賞後の興奮気味なお客さんの様子から、没入感の高さが伺い知れた。HPに店主とサポーターによる各作品紹介動画やサントラのSpotifyリンクがアップされているのも特徴のひとつか。地元の作家さんによるアート作品を販売していたり、最近は縁あって音楽レーベルも始めたそうだ。


ジグシアター(鳥取・湯梨浜)
桜並木の坂を上がったところにある廃校になった小学校の3階・図工室を、建築家と相談しながらDIYでリノベーションして、2021年オープン。ロビーは元・図工準備室で、棚などもそのまま利用している。シアターのスポンジマットのソファーは可動式で、ライブやフリーマーケットなど他のイベントでも使える。上映は基本1本1週間、午前中・午後・夜の3回だが、映画によっても変えるらしい。悩みは12時と17時の町の定時チャイムで、そこを避けてスケジュールを組んでいるというのが、ローカルあるあるで微笑ましい。カフェスペースはないが、1階に湖畔の人気店HAKUSENのカフェLiberarieが入っている。ジグシアターのお客さんにタンブラーの貸し出しも。鳥取にはミニシアターがないので、遠方から車で来るお客さんも多いとか。小学校立地の利点の一つは駐車スペースに困らないことで、9月に館主ゆかりの濱口竜介監督がやって来て大盛況だったイベントで特に実感したとのことだった。


シネコヤ(神奈川・藤沢)
「映画と本とパンと店」というコンセプトで、鵠沼海岸商店街の元・写真館を改装して2017年オープン。 1階はパンの販売と、映画関連などの約3,000冊の本が置かれていて、利用者は自由に読めるようになっている。2階はソファーやクラシックな椅子が並んだ上映スペースで、パンやコーヒーを味わいながら鑑賞できる。週5日営業で1作品2週ずつの上映が基本だが、人気がある作品は延長上映することも多い。会員制度があり、ファンクラブやメンバーズになると鑑賞料金が安くなる。イベントを積極的に実施していて、ライブや読書会、古本市などのマルシェの他、自主上映会や製作のワークショップなども開催。ここは私の地元でいつもとてもお世話になっているが、本業の北欧映画配給10周年を記念して全配給作上映を含む「ノルディック・シネマ・ワンダーランド」の開催を12/6-24に予定している(と、さりげなく宣伝)。


RIVIERA PUNAVOURI(フィンランド・ヘルシンキ)
番外編はフィンランドの首都ヘルシンキに最近出来たRIVIERAの2号店。すべて二人掛けのソファー席で、席ごとにサイドテーブルやコート掛け、充電できるソケットまである。ドリンクや軽食をオーダーすると、ロビーにあるバーから席まで持ってきてくれる。スクリーンは2つあり、トイレはフィンランドでは珍しくないジェンダーレス。営業は通常夕方からで鑑賞料金は少し高めだが、ヘルシンキの他エリアにある1号店と共に人気があり、いつも賑わっている。先日、初めて犬と一緒に観る会を実施したらしい。上映作品は必ずと言っていいほど犬が出てくるフィンランドの巨匠アキ・カウリスマキの新作『枯れ葉』。驚愕のイベント当日動画はこちらから(大好評だったので、また実施したいそう)。


どの場も映えるおしゃれな空間というだけでなく、地元のお客さんが安心して来ることができて、地域に密着していることを何より大切にしているようでした。20-30席ほどの小さなサイズで維持していくには、食べる・飲むを充実させることも大きな要素なのでしょう。そして、毎日休みなく営業している既存の映画館と違い、週2日休んだり、月に2週間だけ上映したり、少人数の運営側にも無理のない体制をとっていることも、今の時代には必要なことのように思えます。映画だけでなく地域の文化拠点のような役割を担いながら、さまざまなチャレンジを続けている場を、ぜひ訪れてみてください。