「映画を早送りで観る」ほど忙しいのは、なぜなのか?

初めてフィールドレビューを担当します、修士1年の蓼沼です。今回は最近読んだ2冊の本を紹介します。

最初に取り上げるのは、今年4月に刊行された『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(稲田豊史著/光文社新書:写真左)。若年層を中心に取り入れられている「早送り視聴」という習慣について、深く掘り下げた本です。たとえば、YouTubeやNetflixに実装された倍速機能や10秒飛ばし機能を使いながら、2時間の映画を1時間で観る。複数話で構成されたテレビドラマをエピソードごと飛ばして最終回へ。レビューサイトやいわゆる「ネタバレサイト」を先回りしてチェックして、重要なシーンをかいつまんで観ることも、同様の現象とされています。

著者の稲田豊史は、早送り視聴を実践する人へのインタビューや大学生へのアンケート調査などを通じて、この習慣が定着していった事情を次のようにまとめています※1

  • 映像作品の供給過多:サブスクリプション(≒定額課金制)の導入
  • 現代人の多忙に端を発するコスパ志向
  • セリフですべてを説明する作品の増加
  • 共通する背景として、ネットの広がりによる技術の発展と普及

そのうえで、早送りという視聴スタイルでは、作品を味わうことよりも、情報の効率的な摂取が重視されていること、それにより、映画を観るという行為が「作品の鑑賞」から「コンテンツの消費」へと変化していることを指摘します。

「鑑賞」は、その行為自体を目的とする。(中略)ただ作品に触れること、味わうこと、没頭すること。それそのものが独立的に喜び・悦びの大半を構成している場合、これを鑑賞と呼ぶことにする。対する「消費」という行為には、別の実利的な目的が設定されている。映像作品で言うなら、「観たことで世の中の話題についていける」「他者とのコミュニケーションが捗る」の類いだ。

前掲書 pp.25-26

確かに倍速やシーンカットで観た場合、製作者の演出意図を汲み取ることは難しくなるでしょう。このことをどう捉えるか(作品や製作者への冒涜か、それともれっきとした視聴方法の一つなのか)について、本書をきっかけにさまざまな議論が持ち上がっていますが、私の中に浮かんできたのは「そもそも早送り機能を駆使しなければいけないほど時間がない」というのは、一体どういうことなのだろうという疑問でした。

ここで、2冊目の本『加速する社会 近代における時間構造の変容』(ハルトムート・ローザ著 出口剛司監訳/福村出版・写真右)に話を移します※2。598ページもある分厚い社会学の理論書ですが、帯の言葉に共感する方も多いのではないかと思います。

私たちには時間がない、あふれんばかりに勝ち取っているはずなのに

著者のハルトムート・ローザはドイツの社会学者で、学説における位置づけとしては、批判理論の第4世代に当たります。ローザは本書において、時間を節約し効率的に動けば動くほど時間が足りなくなる現象は、社会のシステムにかかわる問題であるという見方をし、加速という概念を用いてこのメカニズムを説明します。

加速について考えようとしたとき真っ先に思い浮かぶのは「テクノロジーの発展が加速を推し進めている」という構図ですが、ローザはテクノロジーのみにその原因を帰しているのではありません。そうではなく、経済的・技術的な要因、個人の生活様式や文化、そして社会構造という3つのカテゴリーが互いを強化し合いながら加速を推進し、加速自体を自己目的化する循環を作り上げている。これがローザの社会認識です。

ここで先に取り上げた「早送り視聴」に再び向き合ってみると、何が見えてくるでしょうか。注目したいのは、早送り視聴にともない、映画を観る行為が「作品の鑑賞」から「コンテンツの消費」へと変容したという稲田の指摘です。ローザの見立てを活かすと、次のような説明の仕方もできるかもしれません。

他の様々な行為と同様に「映画を観ること」も加速の圧力に晒されていく。鑑賞も消費もその行為に内包されていたものの、時間と分かち難く結びついている「鑑賞」は加速についていくことができず、映画を観る行為からこぼれおちていった。

日々を生きる中で私たちは、速いことは良いこと、遅いものは速く、速いものはさらに速く、という態度を身につけました。しかし、中には稲田が発見した「作品の鑑賞」のように、加速させることができないものも存在します。たとえば会社の中で昇進していくこと(数年~数十年先を要する)、子どもの成長を見守ること(成人まで18年!)、わざわざ・・・・選挙というプロセスを踏んで意思決定をすること、などなど。私たちはこれらとどう向き合っていくことになるのでしょうか。加速できないけれど価値あるものと切り分け、守っていくのか、それとも――※3

2冊の本をほぼ同時に手にとったのは全くの偶然だったのですが、合わせて読んでいただくと、早送り・加速についてより立体的に考えることができるため、おすすめです!


※1 本稿執筆中に、以下の記事が公開されました。早送り視聴に関する議論は活発化しています。【まつもとあつし 若者は映画を早送りで「見ていない」――倍速再生議論の本質 Yahoo!ニュース 個人】

※2 ローザの加速理論については、監訳者の出口先生による解説記事を読むことができます。私も出口先生のゼミに参加し、本稿執筆のヒントをいただきました。【出口剛司 加速社会」とは何か? 私たちを追い立て、充足感を奪っているものの正体 現代ビジネス】

※3 ちなみにローザは、加速する社会への処方箋として「減速」を掲げているわけではありません。続編となる『共鳴する世界―世界関係の社会学』(新泉社・近刊)で詳しく述べられているそうです。