こんにちは。今回のフィールドレビューは、博士課程の森田がお届けいたします。皆さんは、東京・神保町の駅前にある元祖ミニシアター、岩波ホールをご存知ですか?
岩波ホールは1968年に多目的ホールとして運営を始めましたが、1974年に映画文化交流の牽引者だった川喜多かしこ氏の要望を受けてサダジット・レイ監督『大樹のうた』を上映したことを機に、従来の商業主義とは一線を画した映画館としての歴史を歩んできました。総支配人の高野悦子氏と川喜多氏で発足した「エキプ・ド・シネマ」は、一種の文化運動のような発想を持っており、国内外のクオリティーの高い映画作品を地道に紹介し続けてきた貴重な存在です。
その岩波ホールが残念なことに、今月29日(金)をもって閉館するそうです。理由はコロナ禍による経営難・・・というわけではなく、入居するビル自体のやむを得ない事情のようですが、日本のミニシアター文化の先駆け的な場所だっただけに、周囲でも惜しむ声が非常に多いです。
私自身も、これまで岩波ホールでイランやアフガニスタンといった国々の珍しい作品や、日本であれば黒木和雄監督の作品などに出会ってきました。劇場ロビーには歴代の上映作品のチラシが掲示されていて、眺めているとその充実ぶりにしみじみしてしまいます。
現在、最後の公開作品としてドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォーク監督のドキュメンタリー映画『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』が上映されています。昨日まではヘルツォーク作品の特集も企画されていて、私も行ってきました。『歩いて見た世界』は、30年前に亡くなった旅人で小説家のチャトウィンとの交流をたどっていくというヘルツォークのセルフ・ドキュメント的な要素もある作品で、普段は意識することのない広大な世界に想いを馳せることのできる一本でした。そして、特集の方は日本で見る機会の少ない過去のドキュメンタリーが中心で、満席の回が出るほど賑わっていました。
観客の中には、感慨深げにロビーに長居している方々も少なくなく、私自身もその一人でした。岩波ホールで映画を見る体験もこれで最後になるのか・・・と思うと名残惜しくなり、劇場内の写真をたくさん撮ってしまいました。
こうした独自のポリシーを持った個性的なミニシアターがあったからこそ、日本で多様性に富んだ映画文化が育ってきたのだということを、あらためて実感します。皆さんも、閉館までに一度足を運んでみてはいかがでしょうか?
岩波ホールの公式ウェブサイトはこちら → https://www.iwanami-hall.com/