現代アートの「枠の外」

こんにちは、今回のフィールドレビューを担当する丹羽研究室修士1年の半田です。アーティスト・インディペンデントキュレーターとして活動しているため、仕事も趣味も研究対象もアートである私ですが、アートは実物と対面してこそ。コロナ禍の「おうち時間」や美術館の臨時閉館は大変に苦しい時間でした。

アート界も入場が少しずつ緩和され、私もこの夏にいくつかの展示を観ることができました。

今年、恐らく最もコロナの影響を受けた展示の一つは、森美術館「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」展(https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/stars/ )だと思われます。

世界的に名前が知られている日本拠点のアーティスト6人の作品を一堂に会したこの豪華な展示は、オリンピックでの訪日観光客を主なターゲットとしていたことでしょう。残念ながらコロナ禍でオリンピックの開催は延期となりましたが、このビッグネームたちの作品を美術館でまとめて見られる機会は確かに日本ではとても珍しいです。村上隆の出世作の一つである等身大フィギュアや、展示室の床からデザインされた李禹煥の作品は必見です。

一方で、選出アーティスト6人中5人が男性。草間彌生のみが女性です。オノ・ヨーコ、森万里子といった世界的な日本人女性アーティストもいる中で、この偏りは現代美術展として許容されるものなのかも問われています。

そんな問題意識を持っている展示といえば、参加アーティストを男女同数とした昨年のあいちトリエンナーレ2019、そして出展者全員を女性アーティストで構成した展示「彼女たちは歌う」展が思い付きます。

「彼女たちは歌う」展(https://listen-to-her-song.geidai.ac.jp/)はこの夏に元森美術館のキュレーターで今は東京芸術大学の准教授、荒木夏実によって企画され、東京芸術大学美術館陳列館にて開催されました。出品作品全てが「女性としての視点」から作られたものというわけではありませんでしたが、女性アーティストだけを集めたこの規模の展示は美術界の話題となるには十分でした。

「このダイバーシティの時代にまだ『女性だけ』の展示をやっているのか」という声もありましたが、寧ろ「女性だけの展示」でこれだけ話題となる日本の現状を鑑みると、まだまだ日本はそこまでの段階ではないとも言えます。例えば、埼玉県立近代美術館「New Photographic Objects 写真と映像の物質性」展は、男性作家のみで構成されていましたが、その偏りが話題となることはありませんでした(参考:ダニエル・アビー氏による展示評 https://bijutsutecho.com/magazine/review/22434)。「彼女たちは歌う」展はそのような日本社会の中で重要な一歩を前に進めたのだと私は思います。

では、このような問題提起を受けて、私たち次の世代の美術関係者はどうすべきなのか。問題意識を共有するような作品作りや展示作りの火を絶やさないことが、その回答の一つだと考えています。

手前味噌ですが、私、半田颯哉が企画しアーティストとしても参加している展示「New New New Normal」展(http://www.tokyoartbeat.com/event/2020/1357)は、今の私が提示する「回答」です。

このような同時代を生きる企画者やアーティストが持つ問題意識がそのまま現代のものとして立ち現れてくるのも現代アートの面白さの一つ。アート鑑賞の際にはそんな展示の「枠の外」のことにも思いを馳せてみると、より深く楽しめるかもしれません。