中国残留孤児を取材して

今回のフィールドレビューは博士課程の王楽が担当いたします。現在「メディアスタジオ実習Ⅰ」という授業で、中国残留孤児に関するドキュメンタリーを制作しています。

今回の企画は残留孤児を通して「戦争の記憶」を振り返ることを目指しています。主な主人公は、残留孤児一世のKさん。最初は在日黒竜江省出身者のコミュニティを通して孤児三世のTさん(Kさんの孫さん)から取材アポイントを取りました。最初の企画は残留孤児三世を主人公として設定していましたが、Tさんは日本で起業して、東京とハルビンを行ったり来たりしていながら、戦争どころか、現在の日本の政治状況にもあまり関心を持っていないことに、取材中で初めて気づきました。

そのため、最初の企画案を大幅修正し、波瀾万丈な人生を送ってきた孤児一世のKさんを主人公にしました。しかし、残留孤児一世と戦争を繋げる新たな問題意識を探し出さないといけません。そこでKさんのインタビューを通して、「戦争の記憶が次世代に継承されたくないよ」という戦争当事者の考えが問題意識として確立できるようになってきました。

中国人養父母に育てられた残留孤児Kさんは被害意識と加害意識のはざまで苦労してきました。自らの「戦争の記憶」を封印することで日本に生きている孫達がより幸せな人生を送れるようになると信じているようです。このようなKさんの思いとその内実について、いかに映像で構成し説明するかが、現在メンバー達が向き合わなければならない問題になっています。

この企画案のメインテーマである「戦争の記憶」は、教科書問題をはじめとし、歴史認識問題として位置づけられ、現在日中韓の大きな外交課題となっています。そのなかで、日本国内のメディアでは、広島・長崎などを通して創出された被害者意識的な「戦争の記憶」が著しく見られています。

本作品は、戦争の被害者なのに、加害者のアイデンティティを持たざるをえないことで一生苦労してきた残留孤児一世の思いを描くものです。Kさんはどのような「戦争の記憶」を持っているのか、なぜ伝達したくないのか、こうした記憶を持ちながらどのように日本での生活を営んでいるのか。このドキュメンタリーを通して、被害と加害が絡み合う重層的な「戦争の記憶」を浮彫りにできればと考えています。