「勝敗」「小沢征爾『第九』を揮る」視聴レポ

2013年5月24日(金)、東京大学本郷キャンパス工学部2号館92B教室にて、テレビアーカイブ・プロジェクト第14回「みんなでテレビを見る会」が開催されました。

今回は「テレビは時間である〜萩元晴彦のドキュメンタリー」と題して、1960年代にTBSで放送されたドキュメンタリー『勝敗ー坂田対林・第四期囲碁名人戦』(TBS、1965)と『小沢征爾「第九」を揮る』(TBS、1966)を上映しました。ゲストには萩元晴彦や村木良彦らとともにテレビマンユニオンを結成した今野勉さんをお招きしました。

『勝敗』は坂田名人対林八段の囲碁名人戦を描き、制限時間が差し迫る中で思考を巡らせる人の真剣な顔を静かに見守っていく作品です。同時録音技術が珍しい時代に、何時間もの試合を同時録音で撮影しており、虫の声、スプーンがコップにあたる音、石を打つ音が印象に残ります。

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また、「現代の主役」という枠で放送された『小沢征爾…』では、「第九」の練習風景から、指揮者・小沢征爾の表現力の豊かさを我々に伝えています。

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「テレビは時間である」…
萩元さんはこの考えを持ってドキュメンタリーを作ってきたと今野さんは語ります。

人の考える顔を長く見つめたことがありますか?『勝敗』では碁盤を見せるのではなく、考えあぐねる名人の顔をとり続け、その時間の流れが私たちにまで伝わってきます。また、『小沢征爾…』では、完璧な演奏にたどり着くために演奏者に見せる指揮者の一つ一つの「表現」の変化を、映像から感じることができます。

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初期のドキュメンタリーは前もって原稿が作られ、台本と編集が決まった上での撮影が多かった中、萩元さんはまずカメラを持って撮り始める所からドキュメンタリーを作っていたそうです。伝えようとするメッセージありきの映像作りではなく、「カメラが発見するもの」に期待し、誰も見たことのない表情や声の変化を撮ることで、その瞬間には気付かなかったことをカメラに残そうとしたのです。

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このドキュメンタリーの独特な手法には、特に映像制作者やテレビ局関係者の方々から多くの質問が寄せられ、現在ではこのような実験的な作品の制作は難しいであろうという意見も出されました。萩元晴彦のドキュメンタリーは、現在もなおテレビ界で異彩を放っているといえます。