「メディアの敗北」視聴レポ

2012年5月25日、東京大学本郷キャンパス工学部2号館にて、テレビアーカイブ・プロジェクト第5回「みんなでテレビを見る会」が開催されました。 当日は、60名を超える方々にお集まりいただきました。沖縄からお越しいただいたゲストの土江さんを始め、福岡など遠方からお越し下さった方もいました。

第5回は、「沖縄返還から40年 忘れ去られた密約」をテーマに、『メディアの敗北』を上映しました。この番組は、2003年琉球朝日放送にて放送された番組です。当時、沖縄ローカルでしか放送されなかったので、今回の上映は貴重な機会となりました。

この番組は、「沖縄返還密約事件(外務省漏洩機密事件、西山事件)」を扱った番組です。1971年、国会では社会党議員によって、沖縄返還における「密約」疑惑が追及されていました。そのような中、返還交渉における「密約」に関る文書を入手・漏洩した「犯人」として、毎日新聞社の西山太吉記者が逮捕されました。同番組は、この事件におけるメディアの動きやその問題点を、当時の映像と様々な立場の関係者による証言をもとに、検証するという内容のものでした。

上映後は、この番組のディレクターであった土江真樹子さん(元QAB記者)に、制作に至るまでの背景や制作過程において考えられたことなどをお話していただきました。その後、「メディアの敗北」というテーマに関する活発な議論が行われました。以下、お話、議論のそれぞれにおいて最も印象的だったことを紹介していきます。

まず土江さんのお話の中で、印象的だったのは、「どのような立場からものを見て語るか」「何をクローズアップするか」によって事件の名称や印象が変わってくるということです。当初、この事件は、返還交渉における「補償費疑惑」でした。しかし、疑惑追及において、実際の電信文が登場し「補償費疑惑」が「密約疑惑」になったとたん、政府は、その文書の漏洩ルートを問題にしました。こうして事件は「機密漏洩事件」となり、女性事務官と西山記者が逮捕されました。

この時、新聞各社は「報道の自由」に対する権力の介入だとして「知る権利キャンペーン」を行いました。しかし、女性事務官と西山記者の間に、男女の関係があったことが知れ渡ると、事件は男女のスキャンダルへと変わっていきました。こうして事件は、「機密漏洩事件」、「男女のスキャンダル」といった様相を帯びていきました。そして、「機密漏洩」と「男女のスキャンダル」がクローズアップされることで、「密約問題」と「報道の自由」というこの事件の側面は、忘れ去られていきました。

メディアは、事象のある側面を選択し、記事や番組を構成していかなければいけません。しかし、その際「いかなる視点が後景化しているのか」という事を考えなければいけないと思いました。

そのことに関し、ディスカッションの中で重要な問題提起がありました。密約の研究をなされている方が、事件の本質が「密約」から「男女のスキャンダル」にすり替えられたというのなら、今現在メディアが「沖縄密約」を語る際の視点が「東アジア」から「日米関係」にすり替えられているのではないかという感想を述べられました。日米関係から「沖縄返還」を語ることで、朝鮮半島やベトナムといった東アジアにおけるリージョナルな展開が見失われてしまうのではないかということでした。

今回の土江さんのお話と議論を受け、メディア産業に従事する人だけでなく、メディアを受容する側の人間も「メディアはどのような立場から報道をしているのだろうか」を考え、別の視点に想像力を働かせる重要性を感じました。

さて、次回はついにみんテレ初!!バラエティー番組の登場です。あの人気番組「8時だョ!全員集合」を取り上げます。どうぞ、ご期待下さい。