こんにちは、博士課程の森下です。
2024年もあと半月。各メディアでは様々な今年の総括がされていますが、今年は日本の映画興行収入ベスト10に外画実写が1本も入らない歴史的な年になりそうとか(映連による正式発表は来年1月末予定)。外画実写を研究対象にも仕事にもしている身としては何とも切ない1年となりそうですが、ここに今年劇場公開された、ジャーナリズム・メディア・ジェンダーを切り口に学環的と思われるオススメ映画3本(邦画含む)を挙げたいと思います。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
(2024年/アメリカ・イギリス/109分、監督:アレックス・ガーランド)
ここ最近は勢いが落ちているものの、2010年代以降のアメリカ独立系映画界を席巻する製作会社A24史上最大の製作費で挑んだ意欲作。『オッペンハイマー』同様、日本だけ劇場公開が遅かったが、大統領選に合わせて敢えて公開時期をずらしたのが功を奏したのか、久しぶりに非メジャー外画で興収1位を記録した。戦争映画として観ると些か物足りないが、アメリカが二つに分断して内戦勃発という架空の設定をジャーナリストの視線で描いている。ホワイトハウスでの大統領単独インタビューをめざして激しい内戦をくぐり抜け、しのぎを削るジャーナリストたち。カメラを片手に戦場でシャッターを切り続けるが、アドレナリンが出まくっている銃撃戦の中で、冷静に彼らに写真を撮らせようとする兵士たちの対応に、一番驚いた。いくらでも自分で撮り発信できる時代に、第三者であるジャーナリストに撮影・記録・発信させる意味とは何か、ジャーナリズムの価値とは何か、考えさせられる。
※12/6からAmazon prime video見放題にて独占配信中
『ラジオ下神白』
(2023年/日本/70分、監督:小森はるか)
コロナ禍中の2021年「アートプロジェクト実践論」集中講義にて、講師のアサダワタルさん(文化活動家)から伺ったアートプロジェクトがドキュメンタリー映画となった。福島の復興公営住宅・下神白団地に住む方々のまちと思い出深い音楽にまつわるエピソードを収録する被災者支援活動「ラジオ下神白」のコロナ禍を含めた数年間を追っている。団地内にリクエストポストを設置し、ラジオ番組風に収録したものをCDにして全戸手渡し配布することで、人のつながりをつくっていった活動が、伴奏型支援バンドというアサダさんの起死回生のアイディアで新たなフェーズに。コロナ禍中は現地に行けなくなり、活動がままならないこともあったが、ラジオという形式、記録/保存メディアとしてのCD、テレビ電話からの宅録(遠隔レコーディング)、生バンド伴奏による歌声喫茶大会、そしてこのドキュメンタリー映画など、新旧メディアの共時性と通時性がミックスされて、被災者支援という枠を超えた文化活動の継続性につながっていることがとても興味深い。
※全国の劇場や自主上映会にて上映中
『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』(ニナ・メンケスの世界)
(2022年/アメリカ/107分、監督:ニナ・メンケス)
名作と言われてきたヒッチコックやスコセッシ、タランティーノら名だたる監督の作品から2020年代公開作品における「男性のまなざし(Male Gaze)」を、多数のクリップを見せながら明らかにしていくドキュメンタリー。「女性を客体化する」視覚言語が自明になっていること、そのような表現が映画業界のセクハラや性暴力にもつながっていることを、ニナ・メンケス自らや映画業界で活躍する女性たちが指摘する。男性は立体感のある照明で全身を写しアクションを伴うのに対して、女性は平面的な照明でパーツのみのアップで写し、客体化されるということが、具体的なシーンを通じて提示されるとよくわかる。監督が男性か女性かという問題ではなく、客体化は美しい表現として肯定され、ステレオタイプとなっていた。確かにそのような表現を不快に思うことがあっても、呆れつつ気に留めていなかった自分がいる。多くの作品で自明なものとして埋め込まれたイメージを脳から引き剥がすのは容易ではなく、まさに洗脳されていることに愕然とした。
※劇場公開終了