こんにちは。博士課程の馬琳です。突然ですが、みなさんは老いゆくことについてどう思いますか?最近放送が終わったテレビドラマ『団地のふたり』を見たのがきっかけで、老いのあり方についていろいろと考えさせられました。今回のフィールドレビューではこのドラマを紹介して私の感想をお伝えしたいと思います!ネタバレを含みますので、気になる方にはお詫び申し上げます。
『団地のふたり』は藤野千夜による小説を原作にしたドラマです。今年9月からNHK BSの「プレミアムドラマ」で放送されていました。主人公は同じ団地で育った幼なじみの太田野枝と桜井奈津子です。二人とも今、50代の独身女性。かつて実家を離れて暮らしていましたが、さまざまな事情を経て再び団地の実家に戻ることになりました。ドラマでは二人の主人公の友情だけでなく、他の団地住民とのつながりなども描かれています。
50代という主人公の年齢設定がとても面白いと思います。一般的に60代以上になると高齢者とみなされますが、50代の人はまだ定年に達していないものの、体力が衰えたり、目の老化を感じたりすることがあります。例えば、主人公が携帯の文字などが見にくくて、老眼鏡を探すシーンがドラマに何回か登場します。私の両親も今50代で、老眼鏡をかけ始めたことを考えると、とても共感しました。
とはいえ、このドラマにおいて老いというテーマは決してネガティブに扱われていないです。団地に住んでいる人々の中、歳を取った人の割合が高いため、50代の野枝と奈津子はむしろ若者として扱われています。第1話では、二人は同じ団地の一人暮らしの高齢者に網戸の張り替えを頼まれたエピソードが印象深かったです。60代、70代の人々と比べて、50代の野枝と奈津子はまだまだ若いんだというメッセージが伝わっています。
実際、老いというテーマはドラマだけでなく、ドキュメンタリー番組にもよく取り上げられます。例えば、『NNNドキュメント』は1970年代から老いの問題を提起し、多様な老いのあり方を提示してきました(近藤和都2020)。また、私は貧困報道を研究しています。研究対象である貧困に関するドキュメンタリー番組には、家族とのつながりを絶ったり、路上生活者になったり、生活が困窮したりする高齢者が多く表象されています。高齢者の貧困や孤独死といった問題を取り上げるドキュメンタリーは大きな社会意義があると思いつつ、番組を見ながら老いゆくことが恐ろしいとしばしば感じます。しかし、『団地のふたり』を見たら、多様な老い方があるんだ、老いることを楽観的に考えてもいいんだと感じて、不安が和らぎました。
もちろん、『団地のふたり』で描かれた老いのあり方には理想的な面もあります。独身女性が老いゆく過程にはさまざまな困難が伴うと予想されます。上野千鶴子先生がおひとりさまシリーズ、『おひとりさまの老後』(2007)、『男おひとりさま道』(2009)、『おひとりさまの最期』(2015)で述べたように、みんなひとりで老いゆき、人生の最期を迎える時代がやってきそうです。このような時代にいるからこそ、前向きに老いを考えることが重要だと思います。『団地のふたり』をきっかけに、老いをめぐる想像力が広がりました!
参考文献
上野千鶴子,2007,『おひとりさまの老後』法研.
――――,2009,『男おひとりさま道』法研.
――――,2015,『おひとりさまの最期』朝日新聞出版.
近藤和都,2020,「アーカイブから老いを考える」丹羽美之編『NNドキュメント・クロニクル 1970-2019』東京大学出版会.