当事者の声を記録する

博士課程の田中です。グローバル化や国際化の進展で日本に住む人々は多様化し、在留外国人の方々の数も過去最高の341万人に達しています。

今回は、そうした人々の個々の生活や地域社会における人と人との交流に着目した映像制作についてご紹介させていただきます。

生活者としての在留外国人数の増加

近年、日本の少子高齢化や人口減少が頻繁に報じられていますが、それに対し、在留外国人の方々の数は増加しています。図は総務省統計局のデータをもとに筆者が作成したものですが、黄緑の山グラフでお示しした部分の数値が近年急増していることがわかります。

留学などで来日する方々に加え特に増えているのが、2019年に創設された在留資格「特定技能」で来日される方々です。令和5年12月時点で20万人を超え、直近2年間でも4倍に増えています。先に挙げた少子高齢化と人口減少への対応としても積極的な外国人材受け入れが重視されており、さらに増えることが見込まれます。

見えづらい個々の存在

こうした数に関する動向を確認していると、どうしても外国人の方々個々の存在が見えづらくなる実情があります。また、受け入れ制度の内容や条件についての議論がさかんに行われるようになり、課題を指摘する論文や記事も少なくありませんが、私自身、対象とされている人々を「外国人」といった形で集団化して捉えてしまいがちです。全体を見ることは不可欠ですが、実際の人々の個々の生活や実態に目を向けることも必要であると感じます。

当事者の生活や人生に触れる

こうした問題意識から、前回ご紹介した番組アーカイブ調査では、アーカイブに保存された番組における貴重な取材記録や情報を探す活動に取り組んでいます。また、実際に来日し、日本で生活しておられる外国人の方々にお目にかかり、お話をお伺いさせていただく活動にも取り組んでいます。その中で改めて感じることは、日本で生きる外国人の生活者の方々には、多くの人々との交流や協業、そして、言葉や文化や慣習をめぐる相互理解への日々の物語があるということです。さらに、個々のケースをじっくりとお伺いすることで把握できる課題もあり、その意味でも個別の生活や人生に触れ、丁寧に記録してゆくことが大切だと感じています。「外国人」といった属性は全体を捉える上で意義のある視点ですが、その人そのもの、人生や生活そのものにも目を向けた考察も欠かせないと考えられるのです。

こうした問題意識の下、現在、私は、個々のケースを取材し映像記録を作成する取り組みにも参加しています。昨年は、航空業・飲食業・自動車整備業の分野で活躍されている外国人の方々の映像制作に、そして今年は、ビルクリーニング、建設、飲食料品製造業の分野で活躍されている外国人の方々の映像制作に参加しています。それぞれの方々を取り巻く状況や背景、日々の仕事や交流の様子を捉えるにはどのような視点でアプローチすれば良いか、前回ご紹介した番組アーカイブ調査で得られた知見をもとに検討を重ねています。昨年の制作映像は”Go beyond yourself in Japan!“にて、航空業(ウランチメグさん・モンゴル)、飲食業(トゥオンさん・ベトナム)、自動車整備業(ミックさん・フィリピン)の方々のエピソード映像が公開されています。

こうした形で当事者の顔や存在が見えるようになるということは、私たちの社会における確固たる存在としての認知を広げるということにもつながり、大きな困難や解決すべき課題が生じた際に、ともに考えともに解決に向けて協業するための基盤ともなるのではないかと私は考えています。放送番組の分析という活動とともに、時々の番組に描かれた当事者の今を記録してゆくアプローチにも、時間をかけて取り組んでいきたいと考えています。