10年前のヒットソングを振り返ろう

こんにちは、修士課程2年の清水将也です。JPOPと社会の関係性について研究しており、現在は修論の執筆に追われる毎日です。

さて先日、西野カナさんが、結婚に伴う活動休止以来、実に5年ぶりに活動を再開するという発表がありました。ネット上では彼女の復活を喜ぶ声の一方で、「恋愛観が変化したこの時代に、彼女がどんな恋愛を歌うのだろう」という関心も多く見られました。彼女が不在だった数年の間にも、恋愛をはじめとする社会の感覚は大きく変わっているのですね。

そこで今回は、彼女が「Darling」で大ヒットを記録し、Billboard JapanのArtist of the yearにも選ばれた10年前、2014年のヒットチャートを眺めながら、当時どんなアーティストが流行っていたのかを振り返りたいと思います。なお今回はBillboard Japanの年間Hot100を参照します。
(https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=hot100_year&year=2014)

◎ジャパニーズアイドルの全盛期

(出典:https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=hot100_year&year=2014)

上記は、2014年のHot100の上位5曲です。まず目に付くのは嵐とAKB48の圧倒的な強さですね。既に多くのヒットを生み出してきたにもかかわらず、2014年もなおTOP5を二組で分け合う形となっています。これ以外に、旧ジャニーズグループではSMAPや関ジャニ∞など、秋元康プロデュース系ではSKE48や乃木坂46などがランクインしています。また第三勢力ともいえるLDH系も負けておらず、EXILEや三代目 J Soul Brothers なども存在感を示しています。驚くべきことに、これら3派閥のアーティストだけで、この年のTOP100のうち、実に33曲を占めており、その全盛期ぶりが窺えます。(旧ジャニーズ21曲、48系8曲、LDH系4曲)

なおこの年からBillboard JAPAN Hot100は、単純なCD売上だけでなく旧Twitterのツイート回数など、SNSも含めた複合的な指標を採用しましたが、それでもなおこれだけの占拠が起こっており、これらのアーティストが単純な「CD商法」によるものでない、強固な人気を誇っていたことが窺えます。

一方で2024年現在大人気のKPOPアイドル勢は、この時期、東方神起以外に目立ったヒットが見られませんでした。その点、KPOPアイドルの空席がこうしたジャパニーズアイドルの全盛に影響したともいえます。実際、2014年は、KARAや少女時代がヒットした2010年頃と、BIGBANGやTWICEなどがヒットする2016年以降の谷間の時期にあたるため、ジャパニーズアイドルにとっては競合が少なかった時期ともいえます。

◎多様な女性アーティストの割拠

西野カナとmiwa(2018年放送の「MUSIC FAIR」より)
(出典:https://natalie.mu:8443/music/news/280738)

アイドル以外で特徴的だったのが、様々な女性アーティストたちの躍進です。先述の西野カナに加え、miwa、JUJUなどの歌い手のほか、安室奈美恵を筆頭とし、aiko、椎名林檎など息長く活動を続けるアーティストも安定して存在感を示しています。一方でPerfume・きゃりーぱみゅぱみゅといった中田ヤスタカ系のアーティストは2010年代前後がヒット期に当たることもあり、この頃は下位でのランクインとなっています。

なおこれら女性アーティストはそれぞれが特徴的な音楽性を有しており、アコースティックなものから、エレクトロニックなサウンドまで、様々な音楽がチャート上に混在しています。こうした傾向は、後に「Gacha POP」の異名が付けられる日本の音楽らしい、バリエーションの雑多性を感じさせますね。
(参考:https://spotifynewsroom.jp/2023-06-23/spotifygachapop/)

一方であくまで雑感ではありますが、2024年現在と比べるとその歌詞・メッセージはどこか「純愛志向」的なものが多かったようにも見受けられます。「多様性」的な概念がまだ導入されておらず、依然としてテレビがヒット曲を生み出すことが多かったこの頃は、特定の少数の感覚ではなく、「広くみんなが共感できる」ものが支持される傾向にあったのかもしれません

◎アニメ的な世界観とJPOP

(出典:https://www.disney.co.jp/fc/anayuki)

また2014年は、「アナと雪の女王」「STAND BY ME ドラえもん」という二作のアニメ映画がヒットした年でもありました。特に「アナと雪の女王」は社会現象にもなり、HOT100にも4曲がランクインしています。音楽とアニメ映画の大掛かりなタイアップは、2016年の「君の名は」などを経てその後一般的になっていきますが、2014年はこうした潮流の初期に当たるのかもしれません。

一方で、映画以外のアニメソングが大ヒットに繋がるという傾向は、現在ほど見られません。メディア環境的には、2014年はYouTubeの浸透こそある程度見られたものの、音楽や映像等のサブスク的な概念は普及しておらず、現在ほど誰もが自由にアニメを観る環境ではありませんでした。

なお、アニメ的な世界観を現在ほどJPOPが積極的に描いていなかったこの時代に、これらを先駆的に行っていたアーティストとしてSEKAI NO OWARIが挙げられます。彼らはこの年、「スノーマジックファンタジー」などで、全バンド中で最多の4曲のランクインを果たしますが、そのビジュアルを含めたフィクショナルでファンタジー性のある世界観は、依然として現実世界が問題の中心であったJPOPの感覚としては新しかったものといえます。後のアニメタイアップの主流化やボーカロイド的な世界観のヒットにあたっても、彼らがJPOPの土壌に、こうした空想的な世界観を持ち込み、浸透させたことは、重要な出来事であったといえます。

まとめ

以上、簡単な分析ではありましたが、2014年のヒット曲を概観してみました。ジャパニーズアイドルの全盛や女性アーティストの割拠、アニメ的な世界観の萌芽など、現在に繋がる、様々な出来事があったように思います。

一方で、2024年と比べると、ボカロや個人制作などネット発のアーティストがほとんど存在しておらず、ヒットの起点としてのテレビの影響力は依然として大きかったといえます。この後、サブスクの普及やTikTokの登場を受けて音楽のヒットの傾向は大きく変わっていきますが、そういう意味では2014年というのは「マスメディア(テレビ)が音楽の主役を作ることができた最後の時代」なのかもしれません。

また、楽曲の世界観も2024年と比べると、過度に暗鬱なものやフィクショナルなものが少なく、どこか「純粋志向」的なものが多いようにも思えます。ここでは細かい分析はしませんが、先述の通り、テレビ的な「大衆志向」の感覚が残っていた分、「広くみんなに聴かれる」ことが重要だったのかもしれません。

ということで今回は2024年の視点で、10年前の2014年のヒットチャートを眺めてみました。音楽をとりまく技術の変化から、恋愛や人生に対する社会的な感覚の変化まで、10年の間にも、様々な変化があったように思います。「Darling」で当時の日本の恋愛観を築いた西野カナさんが、この時代に何を歌うのか、今から楽しみですね。

最後までお読みいただきありがとうございました。