「大河ドラマ」というエンターテインメント。

こんにちは。博士課程の森下です。
自室にテレビがなくなって久しいですが、今回はご長寿テレビ番組の話題をお届けします。
『サザエさん』が始まると週末の終わりを感じて憂鬱になるというのは昭和の時代からの日曜夜のお約束ですが、日曜夜は現在61作目が放映中のNHK大河ドラマを20時から見るというのも昭和から続く習慣のひとつかもしれません。日曜20時は歴史的にも各局凌ぎを削ってきたゴールデンタイム枠であり、現在も『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ)や『ポツンと一軒家』(朝日放送)といった人気番組が大河ドラマと視聴率を争っています。我が家は子どもの頃から大河ドラマ1択でしたが、今年、非常勤先の大学生たちにアンケートをとったところ、約30人の学生の中で大河ドラマを見ている人は一人もいませんでした。「家族団欒」の象徴的な枠であった日曜20時に、家族揃ってテレビを見るという習慣はもう過去のものになっていることを感じます。大河ドラマの視聴率も、1960〜90年代前半には最高番組平均視聴率が30-50%台を記録していたものの、2010年代前半までに20%台となり、ここ10年はほぼ10%台というのが現状です。見逃し配信といった新たな視聴形態も生まれ、視聴率だけでは正確な数値は測りづらくなっているものの、大河ドラマの立ち位置が昔と変わってきているのは明らかです。

『鎌倉殿の13人』オフィシャルHP

現在放映中の大河ドラマは『鎌倉殿の13人』。先週末の11月13日(日)が第43回、全48回の物語の最終局面に差し掛かっています。鶴岡八幡宮から徒歩数分の産院で生まれた私にはとても身近な題材で、毎週欠かさず見ています。制作発表があった2020年1月、いつも冷静な覚園寺の住職が「北条義時のゆかりはうちだけだから、困っちゃうなぁ」と言いながら喜びを隠せない姿は忘れられないものがあり、「鎌倉殿ゆかりの地」にはのぼりが立ち並んで浮き足立ったお祭り騒ぎは2年近く続いています。地元だけでなく、東京から来た友人のリクエストで「鎌倉殿ツアー」をすることも、これまで3回ありました。昔のように高視聴率番組ではなくなった大河ドラマのイマドキの受容について、考えてみたいと思います。

「(小栗旬が演じる主人公の)北条義時って誰?」という疑問から始まり、知っているようで知らなかった鎌倉幕府の成立を北条氏を中心として語られる『鎌倉殿の13人』。見ている人はご存知のことと思いますが、生き残りをかけて毎回のように首桶が献上される殺戮が繰り返され、それは歴史書『吾妻鏡』に書かれた史実を元に構成されています。その史実の隙をつき「書かれていないのだから、こういう可能性もあるよね」と展開されるドラマが、脚本家・三谷幸喜と演出の手腕によるもので、殺伐とした物語を魅力的なものに変えています。三谷幸喜は番組開始の2年前から制作発表やキャストの発表などを自ら行い、放送が始まってからは新聞の連載コラムや出演する情報番組で裏話を織り込んでいくという、表立って自作をPRする力に長けた唯一無二の脚本家です。また、番組公式twitterは、放送回が『吾妻鏡』のどこに書かれたものであるかをはっきりさせ、放送回で殺されたり印象的だった役者の収録現場でのインタビュー音声を放送直後にアップすることで、リアリティと臨場感を煽っています。そして、三谷作品ならではの突飛なセリフや設定の面白さから、劇中キーワードが25週連続でtwitterトレンド世界1位になっています。そこには「ネットが〜」と伝えるwebメディアも加担しています。リアルタイムにつぶやきながら見るだけでなく、twitterを見て後から見逃し配信で追いかける(そのためか月曜になってもトレンド入りしていることが多い)という、これまでになかった大河ドラマの楽しみ方を生んでいると言えるでしょう。

源頼朝像@源氏山公園。ハイキングコースから少し外れているが、「鎌倉殿ツアー」には欠かせないポイント(筆者撮影)

歴代の大河ドラマのタイトルで地名が入っているものは、ざっと見たところ『琉球の風』と『鎌倉殿の13人』のみ。「鎌倉」がタイトルに入っていることは、鎌倉がゆかりの地フィーバーに湧いていることに最も貢献していると思われます。人口17万人ちょっとの鎌倉は、コロナ禍前には年間約2,000万人もの観光客が訪れていた地でしたが、昨年は約675万人と1/3以下。外国人観光客が少ない中ではありがたい集客策だったでしょう。鎌倉は東京から1時間ほどで行ける、風光明媚な海と山に囲まれた古都として良いイメージがありますが、鎌倉というところがどのように始まったのか、大河ドラマを通じて明らかになったことは、イメージ先行の鎌倉にとっては良いことだったのではないかと思います。『鎌倉殿の13人』で描かれる殺戮合戦によって、鎌倉にある神社・仏閣は、一部の頼朝と政子の縁結び系を除いて、殺された武士が祀られている怨霊系が多いことも知られることとなりました(「鎌倉殿ツアー」ではそんなところばかりを巡ります)。夏になると観光客で溢れている由比ヶ浜海岸は、(みんな大好き!)和田義盛とその一族が戦って討死した場。その後の戦も含め、海岸で死んだ武士の霊が通ると言われる道沿いの民家では、今でも玄関先に盛り塩をする習慣があります。鎌倉というのは本来そのようなところであり、実際に行ってそのリアリティを確かめられる距離にあるのが良いところです。大河ドラマの舞台になると、自治体とNHKがガッツリと手を組んで記念館を作ったり(今回も鶴岡八幡宮境内に大河ドラマ館が作られました)、1年に渡って大体的な観光PRが繰り広げられます。映画やドラマの聖地巡礼は珍しくなくなりましたが、大河ドラマはまさにその代表格です。

いよいよラスト5回の大詰めとなった『鎌倉殿の13人』。鶴岡八幡宮で最も有名なシーンがどのように描かれるのか、楽しみでなりません。既に2024年に始まる『光る君へ』の制作発表がされており、コンテンツ消費のスピードが進んでいるようにも思われますが、やはり大河ドラマは1年間じっくり楽しめる一大エンターテインメントです。