『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を見て

こんにちは。修士課程2年の宮地です。フィールドレビューを書きます!先日、 2019年公開(日本では2020年)の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』見ました。映画館のスクリーンではなく、PC越しに動画配信で視聴していたのですが、片時も画面から目が離せず、どっぷり映画の世界に没入することができました。

出典:映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 オフィシャルサイト
https://bd-dvd.sonypictures.jp/storyofmylife/

見始めた段階では、幼い頃自分が小説で読んだ『若草物語』の世界が映画でどう再現されるだろうか、という不安と期待が入り混じった気持ちでしたが、脚本・監督をつとめたグレタ・ガーヴィグによって鮮やかに色付けされた『若草物語』を存分に楽しませてもらいました。

『若草物語』は、1869年にルイーザ・メイ・オルコットよって書かれた、マーチ家の4姉妹をモデルにした物語で、長きにわたり世界中の読者(特に少女)に愛されてきた作品です。

この映画において、原作との最も大きな相違点として、小説家を目指す主人公の次女ジョーと、オルコットの立場を重ね、メタ的な物語構造にした点が挙げられます。ジョーがオルコット自身をモデルに執筆されたことはよく知られていますが、作中では『若草物語』の内容が描かれながら、同時に「ジョー」=「オルコット」が『若草物語』を世に送り出すまでの物語としても機能しているのです。

オルコットが『若草物語』を出版するにあたって、存在したであろう葛藤に、グレタ・ガーヴィグが想いを馳せ、21世紀の映画として再構成した、という紹介の仕方が適切かもしれません。

本編が始まって数分後、ジョーが、自身が書いた小説の原稿を編集者に持ち込み採用され、その喜びで、はやる気持ちを抑えきれずに建物を出ると人混みをかき分け、道を駆けて行くシーンがありました。ポスターのメインビジュアルに採用するのも頷けるほど、作家としての一歩を踏み出したジョーの高揚感がとても伝わってきました。

持ち込みの際にジョーは自身が書いた原稿を、「あくまで”友人が”書いたもの…」と嘘の前置きをして手渡すのですが、編集者の目からは見えないように、慌てて指先を隠すように重ねられた手が、映し出されます。その、インクに汚れた指に、心を掴まれました。

原稿を採用してくれたからといって、編集長の態度は、ジョーにとって好意的だったり、芳しいものだったりするわけではありません。ジョーは道徳的で日常に起こる題材をテーマにした作品を描こうとしますが、編集者からは刺激的でセンセーショナルなものを書くように求められます。その上、「女性の登場人物は必ず作中で結婚させるべきだ」、という要求を突き付けられます。ジョーはそれらに対して、時に流され、時に反発しながら、書き手としての在り方を、女性としての生き方を問われつづけます。

女性が生きていく上で、どのような選択をし、何を望むのか、という問題は、ジョーにとってはもちろん、メグ、エイミー、ベスの4姉妹にとっても切実な問題でした。それは結婚だったり、美術の道に励むことだったり、ピアノを弾くことだったり、4姉妹それぞれの個性を際立たせつつ、巻き起こる葛藤とともに、彼女たちのたくましさやしなやかさを描き出していました。

また、4姉妹だけでなく、彼女たちの母や、異なる価値観を持っている叔母にも共有されている、心の奥底の部分での暖かさも感じられ、シスターフッド的な精神も読み取れる作品でした。

現代にも蔓延っている、女性が向き合わざるを得ない、社会制度や慣習、葛藤に目を向け、1869年のオルコットが綴った物語に込められた思いに敬意を払って、新たな視点も加え仲間ら映画として描いたことには感服と驚きがありました。そして、そこには、『若草物語』と4姉妹たち、その読者たちへの愛情を感じました。

『若草物語』は150年にも渡って世界中の少女たちに親しまれてきた作品です。世代や国は違えど、物語やフィクションの中の話であるからこそ、読者たちは同じ体験を共有することを可能としてきました。

小説から映画にメディアの形が変わっても、演じる女優や、絵柄が変わっても、時代ごとに解釈にアレンジが加えられても、読者たちにはふんわりと共有している4姉妹のイメージがあります。

先週、私はこの映画の感想を数人に話しました。映画を見た友人も、原作だけを読んだ友人もいましたが、皆口々に、「子供の頃原作を読んでいたのもあって、映画が始まった時から、『この楽しい少女時代は終わってしまうんだ』と思って、最初から泣いてたんだよね。」とか、「あれ、ジョーとローリーって結局どうなったんだっけ?」とか、「三女のエイミーってたしか少し幼いイメージがあって…」とか、まるで4姉妹のことを古くから知る友達や親戚のように語っていました。

私は『若草物語』を子供の頃母に勧めてもらいましたが、マーチ家の4姉妹は、私にとっても友達であり、母にとっての友達でもありました。そこに、伝統的な物語の良さや、メディアというものが持つ力を感じたりもするのです。同じ登場人物が、時代ごとに何度も息を吹き込まれ、読者たちをエンパワメントする役割として機能し続けることの面白さにも気がつかされたのがこの映画でした。

かつて、『若草物語』を読んだ方も、初めてこの物語に出会う方も、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』ぜひ、ご覧になってみてはいかがでしょうか。これから先も、時代ごとに新しい4姉妹が生まれると思いますが、この時代において再び出会えた、新しいマーチ家のヒロインたちに、私はしばらく元気をもらえそうです。