静かに年末年始を過ごす予定の方へ

こんにちは。今回のフィールドレビューは修士課程の田口が担当いたします。

明日が大晦日ということで1年という時間の短さをひしひしと感じておりますが、皆さんにとって今年はどのような年だったでしょうか。良いことばかりだった方も悪いことが重なってしまった方もいらっしゃると思いますが、来年はより多くの人にとって良い年になることを願っています。

と、最初の挨拶が締めの文章のようになってしまいましたが、本題はここからです。今回は「静かに年末年始を過ごしたい方にお勧めの本」をご紹介したいと思います。紹介したいのは、以下の2冊です。

・水上勉『土を喰う日々』(新潮文庫)

この本は著者が自身の経験をもとに、様々な工夫を凝らして作った料理を紹介したクッキング・ブックであり、異色の味覚エッセーです。副題の「わが精進十二ヵ月」からわかるように、月ごとに旬の食材を使った精進料理が載せられています。題名にある「土を喰う」は幼かった著者の老師の教えから来ているようで、著者は以下のように記しています。

 何もない台所から絞り出すことが精進だといったが、これは、つまり、いまのように、店頭へゆけば、何もかもが揃う時代とちがって、畑と相談してからきめられるものだった。ぼくが、精進料理とは、土を喰うものだと思ったのは、そのせいである。旬を喰うこととはつまり土を喰うことだろう。(p10-12)

著者が食材と対話し丁寧に料理を作っていく描写からは、静かな台所で様々な食材を調理する音が響く情景が思い浮かべられ、なんだか懐かしい気持ちになります。

また食材や料理にまつわる著者の記憶や知識も多く語られており、調理という行為がただ食材を加工するだけではなく、様々な人の経験や過去と今を繋ぐものでもあるように感じました(私の考えすぎかもしれませんが・・・)。実は私は忙しいときや疲れているときに食事をないがしろにしがちなのですが、この本を読んで自分の食生活を少し反省しました。

食べることが大好きな方はもちろんですが、そういえば普段の生活の中で季節を感じられていないと思っている方や、来年こそは食生活を見直したいと思っている方は是非読んでみてください。ちなみに私のお気に入りは十月の章です。

・米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)

ロシア語翻訳者である著者が書いたノンフィクションで、プラハのソビエト学校で小学生時代を過ごした主人公マリとその3人の友人の話です。表題作の「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」のほかに、「リッツァの夢見た青空」「白い都のヤスミンカ」が収録されています。

「アーニャ」「リッツァ」「ヤスミンカ」はマリのソビエト学校の同級生で、マリの記憶に強く残った女の子達の名前です。この3人は魅力的でありながらも、マリと同様に年相応の普通の女の子達でした。しかし様々な事情で連絡が途切れ、30年後にマリが3人を探し当てたときに、幼い頃には見えなかったそれぞれの過去や真実が徐々に明らかになっていくのです。

作中で別の道へと進んだ友人達と久しぶりに会い、マリは嬉しさや寂しさ、困惑等の様々な感情を抱くのですが、その様子にどこか共感する方もいるのではないでしょうか。私にもマリのように「昔仲が良かったのに連絡が途絶えてしまった人」がいるので、マリや友人達の様子に少し切なさを感じました。

また本作の注目ポイントは、大きな歴史の波に翻弄される市井の人々でもあります。激動のヨーロッパで生きた3人の友人達はもちろんですが、日本に帰国したマリもその一人です。本作では、この4人の半生と中欧や東欧、ロシアあたりの現代史が強く関わっているので、その分野が好きな方にもおすすめです。

(あと本編とは全く関係ないですが、この本の解説を書かれている斎藤美奈子さんの『妊娠小説』という本もとても面白いです。是非読んでみてください。)

紹介したい本は以上なのですが、私の表現力ではそれぞれの本の魅力の1割も伝えられておらず、とても歯がゆいというのが正直なところです。なので少しでも気になった方は、手に取っていただけると嬉しいです。是非これらの本を年末年始のお供にしてみてください。

それでは皆さま、よいお年を!