「バブル」の外へ

初めまして、今回のフィールドレビューを担当いたします、修士1年の朱です。みなさん、「練り込み」という陶芸の技法をご存知ですか?「練り込み」は陶芸の伝統的技法のひとつで、約1300年の歴史も持っています。日本では主に愛知県瀬戸市を中心に発展してきました。私はついこの間、たまたま見たテレビのバラエティ番組で初めて「練り込み」のことを知りました。

「練り込み技法とは、白い陶土に鉄やクロム、コバルト等の鉱物を練り合わせて、茶や黒等の色土を作ります。それらを薄く切って積み上げたり、張り合わせたり、折り曲げたりして、模様を作る技法のことです。筆で書いたものとは違い、金太郎飴や巻き寿司の様に裏側にも同じ模様が現れます。」[1]

練り込み技法で陶芸作品を作っている水野智路さんは自分のブログで練り込み技法をこう紹介しています。水野智路さんは、祖父・父から練り込みの技法を受け継ぎ、若手陶芸家として活動しています。彼はインスタグラムを使って、制作過程の動画を世界に向けて発信し続けています。現在、その作品は日本だけではなく、世界的にも有名になっています。作品の柄には日本の伝統的な柄だけではなく、パンダやドラえもんなど外国人や若者にも受け入れやすい柄が新しく加われました。水野さんのこうした発信によって、練り込み技法で制作された陶器は現在若者の間に話題になり、高い人気を集めています。

私は伸ばしの過程によって少し歪んでいく、一枚一枚微妙に違う、唯一無二の図形からできているこの器のこと、大好きになりました!最近はこの練り込み技法にすっかりハマりまして、水野さんのインスタグラムをフォローしたり、暇があればYouTubeでも練り込みの動画を探して見たりようになっています。

自分はよくインスタグラム、YouTubeなどのSNSや動画共有サイトを使っていますが、テレビで練り込みと出会って、サイトの検索欄できちんと調べる前には、そのようなコンテンツを見たことがありませんでした(単に覚えていないかもしれませんが、結果として記憶には残っていなかったです)。それは、それまでの自分の興味でも日常でも、フォローしたユーザーでも陶芸とは全く無関係だからです。

SNSやショッピングサイトなどは独自のアルゴリズムを使って、ユーザーが普段よく閲覧するコンテンツのジャンルや現在世の中から注目を集めているコンテンツなどに基づいて、ユーザーが興味を示しそうなコンテンツを提供しています。こうして、ユーザーは徐々に自分がもともと興味を持っている方向のコンテンツだけを見るようになります。結果的に、自分が最初に関心を持っている分野以外の世界を見る可能性さえ低くなります。

アメリカの活動家・作家イーライ・パリサーは造語「フィルターバブル」を使ってこのような状況を表現しています。インターネットで表示された情報は利用者の興味に基づいたものであるため、利用者は徐々に思想的に社会から孤立するようになります。利用者の望む情報が優先的に表示され、望まない情報がどんどん遠く離れる様子は、まるで泡の膜に包まれている状態のようです。[2]

インターネットを通じてアクセスできる世界は広大であり、そこの情報も溢れるように大量あります。一見何もかもネットから得ることができるようですが、自ら何かを検索したり、調べたりしないと得ることができません。検索に伴って、次のコンテンツはその履歴に基づいて表示されるため、世界はどんどん自分が関心を持っている領域に偏っていて、逆に小さくなります(図11)。

現代社会ではテレビはすっかり「古いメディア」となり、若者のテレビ離れも近年の議論の話題になっています。YouTubeなどのネットコンテンツと比べて「面白さ」が足りないかもしれません。しかし、インターネットでどうしても出会えない、あるいは出会う可能性は極めて低い情報やコンテンツは、テレビから簡単に得られる場合があります。テレビを見て、時々、世界でこんなものもあるのか、自分はこんなことに対して興味が湧いでくるのか、と思うようになることは多々あります。

最近は陶芸の動画ばかり見ていますので、自分のYouTubeのホームページにも変化が起きています。しばらく経ったらアルゴリズムがそれを認識して、表示するコンテンツをさらに修正していくのだろう….。自分の世界がこうして再び小さくなるときは、またテレビで新しい出会いを求めるようになるかもしれません。

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[1] 水野智路ブログ:〜日常生活に練り込みを〜(http://colorclayworks.blog.fc2.com)

[2] イーライ・パリサー著, 井口耕二訳 ,2016,『フィルターバブル—インターネットが隠していること』, 早川書房