永遠のソール・ライター

今回のフィールドレビューは、修士課程の武田がお届けします。みなさん、ソール・ライターという写真家をご存知でしょうか。

ソール・ライターが本格的に日本に紹介されたのは2017年渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで日本初回顧展が行われたときのことでした。

ソール・ライターの作品は、一見して何が(誰が)主役かわからないさりげない風景の中の画面の片隅で何かが起きていたり、画面から被写体が見切れてはみ出していることで、逆にその存在感を放っていたり、非常に個性的で印象に残るものが多くあります。風景の切り取り方は、どこか葛飾北斎等の浮世絵にも通じるものがあって興味深く、湿気で曇った窓ガラスや、逆光でシルエットだけ浮かび上がる人影など詩情に溢れています。

ソール・ライターは1950年代からファッション・フォトグラファーとしてニューヨークの第一線で活躍していましたが、58歳のとき自らのスタジオを閉鎖し、世間から姿を消します。その存在がふたたび脚光を浴びたのは、2006年のことでした。この年、ドイツのシュタイデル社から出版されたカラー作品の写真集『Early Color』が世界的な反響を呼び、当時すでに80歳を超えていたソール・ライターにとって、このときが第2のデビューとなったのです。

ソール・ライターは2013年に89歳でこの世を去りましたが、その住処であり仕事場でもあったアパートには、膨大な作品や資料が未整理のまま残されました。2014年に創設されたソール・ライター財団が、現在も「ソール・ライター作品の全アーカイブ化」を続けています。中でもカラーポジフィルムが約6万点遺されたと言われ、2018年から研究者がこのアーカイブ化に取り組んでいるそうです。

現在Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」は、17年の回顧展以降に発掘された未整理資料のなかから、モノクロ・カラー写真、カラースライド(カラーポジフィルム)等の多くの作品が選出されたものです。

ところでみなさんは「アーカイブ」の意義について考えたことはありますか?ソール・ライターは自らの膨大な作品群を整理せずにこの世を去ったため、その発掘・整理作業は現在も続いています。

どのようなジャンルであれ、作品はそこに存在するだけではその価値は半減してしまいます。整理されて記録され、必要に応じて取り出すことができ、そして適切な環境で保管されることが重要ではないでしょうか。例えば写真であればいつどこで、どこからの依頼で、また誰を、何を撮った写真か、を調べ上げ、記録して未来に残さなければなりません。

丹羽研究室ではこれまでアーカイブに関わるプロジェクトを取り扱ってきました。テレビ番組のアーカイブを改めて見直し研究の可能性を探る「みんなでテレビを見る会」や、記録映画の散逸を防ぎアーカイブ化を進める「記録映画アーカイブプロジェクト」等です。一度失われると取り戻すことの出来ないこれらの資料を、整理して保存しながら有効活用の方策を探る活動の大切さを、今回ソール・ライターの展覧会をきっかけに私は新たに認識することになりました。丹羽研究室のプロジェクトには一般の方も参加可能なイベントもありますのでぜひ関心を寄せていただけたらと思います。