NHK番組アーカイブス学術利用研究発表会

今回のフィールドレビューは修士2年の武田がお届けします。去る7月14日、「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル研究発表会2018」がNHK放送博物館にて開催されました。

NHK番組アーカイブス学術利用トライアルは、NHKアーカイブスで保存している番組を学術的に利用する方法を検討するプロジェクトです。2010年にスタートし、これまで150人以上の研究者が参加、67本の論文が提出されてきました。その成果を紹介する初の試みがこの度の発表会でした。また、このプロジェクトには丹羽先生も審査委員として携わっておられるため、この日は先生から研究の紹介や講評を聞くことができました。

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以下の通り、分野も手法も様々な5本の研究が紹介されました。

〜発表テーマ〜
①「大相撲と力士の身体表象―NHKテレビ番組で描かれる力士の身体性」
②「和田勉の演出方法―芸術的テレビドラマの探求―」
③「テレビニュースにおける言語現象とその要因」
④「テレビに見る1960年代学生運動イメージの形成」
⑤「「阿波おどり」の統一的集団舞踊への変容」

テーマだけ見ても、そのバラエティの豊かさに興味をそそられますが、実際に当日発表を聞いてみると、予想以上に知的好奇心を掻き立てられ、専門外の研究に触れることで得るものも大きいと改めて感じました。参加申し込みをした時点では、特に③と④の研究を聞いてみたいと思っていましたが、当初あまり関心をもっていなかった(申し訳ありません・・・)②の研究がとても面白く印象深いものでした。

「和田勉の演出方法―芸術的テレビドラマの探求―」

この研究は同志社大学文学部の瀬崎圭二先生によるもので、1950〜60年代に和田勉が行った画期的なドラマの演出技法について分析されており、丹羽先生が推薦者でした。瀬崎先生は本来、国文学の研究者で、テレビ研究がご専門ではありません。丹羽先生の講評でも言及されていましたが、この瀬崎先生のバックグラウンドがこの研究のポイントではないかと感じました。和田勉の演出技法を、文学者だからこその観点から読み込んで解釈しておられ、目から鱗の思いでした。

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ここで私は、先日「多文化共生・統合人間学演習」という講義で登場した「専門をレバレッジする」というテーマを思い出しました。それは、ひとつの専門をもちながらその専門家集団から出て活動の領域を非専門のフィールドに移すと、本来の専門性がより評価されてレバレッジが起き、また本来の専門領域においても、外へのアクセスや情報交換によって集団内での価値が高まる、といった内容です。

瀬崎先生の研究はまさにこのレバレッジが起きた例ではないかと思います。テレビドラマの演出技法に対する研究は数多いけれども、その中で国文学の専門性を武器に解釈ができる研究者はそうそういない、という意味で「レバレッジ」がきいてくるわけです。私もひとつの専門を掘り下げるだけにとどまらず、一見遠い分野や異なる観点にも目を向け、レバレッジを効かせられるような研究者を目指したいと思います。