記録に残った12時間、残らなかった30年

今回のフィールドレビューは、博士課程の松本がお届けします。現在、世田谷区の三軒茶屋にある生活工房ギャラリーにて、『穴アーカイブ―世田谷の8ミリフィルムにさぐる』展が開催されています。

穴のあるアーカイブ

【穴アーカイブ:an-archive】とは、記録を残すという営みを、記録が残らないこと、残せないこと、つまり、記録の不在(穴)から捉え直す、反(an)アーカイブ的アーカイブの試みです。私は企画者として、このプロジェクトに参加しています。

2015年からはじまったこの取り組みが着目するのは、昭和30-50年代にかけて一般に市販された「8ミリフィルム」。一般家庭に広く普及した初めての映像メディアです。それらの収集・保存・公開・活用をとおして、アーカイブのあり方を考える。そんな活動の一端を紹介するため、今回の展覧会が実施されました(穴アーカイブは来年度も続きます)。

記録に残った12時間、残らなかった30年

本展覧会では、昨年度までの2年間にデジタル化したおよそ12時間の全映像を紹介します。例えば、銀座を歩く米軍将校(昭和29年)、向ケ丘遊園のウォーターシュート(昭和36年)、東京駅から出発する新幹線の試運転車両(昭和39年)、廃線直前の路面電車(昭和44年)、記録的な洪水を被る多摩川(昭和56年)、帰省した際に映した当時の南三陸(昭和60年)、などなど。

思い出された、8つの風景

また、映像の上映を発端として語られた、映像には記録されていない、記憶の中の8つの風景を紹介します。昨年度までの2年間に出会ったフィルム提供者約30人のうちの8人分、81点のうちの8点分の、記憶の断片です。例えば、渋谷から帰宅する時に自宅周辺で空気の匂いが草木の香りに変わっていたこと、器用だった亡き夫が撮影した東京オリンピックと自作したテレビのこと、上下水道の整備が遅かった世田谷の各戸に井戸を掘った父とヨイトマケのこと、などなど。

穴を埋める

さらには、世田谷にまつわる記録と記憶を集めはじめて3年目を迎えるプロジェクトが向き合う課題や問題を紹介するコーナーもあります。例えば、「記録にも記憶にも残らなかったものはどこへ行くのですか?」「フィルムそのものは保存できないんですが、それでもアーカイブでしょうか?」「他人の撮った記録がどうして大切な資料になるんですか?」「今を生きているから過去には興味ない・・・ですか? 世田谷に住んでないから興味ない・・・ですか?」などなど。

カメラをもった市井の人々は、どんな町並みや暮らしぶりを記録に残したのでしょうか。また、今を生きる私たちは、数十年前に撮られた映像から何を見つけることができるのでしょうか。ぜひ、記録に残された12時間、記録に残らなかった30年間、記憶に残った8つの風景をとおして、残すことのこれまでとこれから、暮らしの中のアーカイブの役割を、来場者の皆さんと考えたいと思います。記録に空いた穴を埋めるのは、あなたです。

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『穴アーカイブ:an-archive ―世田谷の8ミリフィルムにさぐる』展

2017年10月21日(土)~2017年11月05日(日)/9時~20時/生活工房ギャラリー(キャロットタワー3F)

関連イベント『8ミリフィルム鑑賞会vol.3』

2017年11月3日(金・祝)/14時~15時30分/ワークショップルームB(キャロットタワー4F)

今年度、新たにデジタル化した映像の一部を初公開します。

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