今回のフィールドレビューは修士課程一年の荒井が担当します。先日、GWに高校卒業まで過ごした私の地元である岐阜市に帰省するついでに、2年前開館された複合型施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(以下メディアコスモス)を訪れました。
東海道線が通るJR岐阜駅から徒歩で北に約20分、高度経済成長期には人で溢れた柳ヶ瀬商店街を抜け、市役所や裁判所などが集まる市の中心部の傍にメディアコスモスは位置します。
メディアコスモスは、旧岐阜市立図書館の改築に伴い、市民活動センターや多文化交流プラザと合体してグレードアップした複合型施設で、2015年7月18日に開館されました。名誉館長はノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんが、館長には岩手県立児童館の館長を務めた吉成信夫さんが抜擢され、設計は「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞した建築家、伊東豊雄さんが担当しました。岐阜市肝いりの施設です。
メディアコスモスには「知の拠点」、「文化の拠点」、「絆の拠点」という三つの使命が課されています。まず入館してすぐの一階フロアは三つのうち「文化の拠点」と「絆の拠点」を担うエリアです。
「協働のへや」や「つながるスタジオ」、「おどるスタジオ」といったユニークな名を冠したいくつものワークショップスタジオや、私が訪れた時はユニセフに関する展示がされていた「みんなのギャラリー」、ボランティアやnpo法人の活動などの市民活動の情報が集約され相談もできるブースなどがあり、文化発信や市民活動を支える場となっています。
前回、ここを訪れた時には、岐阜のいわゆる「ご当地アイドル」が施設の前の広場でライブを行っていたり、出店が並んでいたりと、従来の「ハコモノ」とは異なり老若男女幅広い人から利用されているようです。これは、設計を担当した伊藤さんが設計の段階から、小学校に出張授業をして小学生が望む図書館像を聞いたりするなど市民へのヒヤリングを積極的に行ったことによるのかもしれません。
ちなみにローソンやスタバも併設されています。スタバはどこにでもいます。
続いて二階が、「知の拠点」である図書館となっています。
写真からもわかるように空間のデザインが従来の一般的な図書館とはかなり異なります。普通、書棚は格子状に「合理的に」配置されていますが、ここでは幾つかの「グローブ」という天井からつりさがる白いお椀のようなものの下に閲覧スペースがあり、そこからゆるい弧を描くように放射状に書棚が並ぶような配置になっていて、まさに「コスモス」といった感じです。名誉館長の益川さんは館内に掲示されていたインタビュー記事で、図書館には「思いもよらない出会い」が期待されていると述べていました。こうした、一見「非合理的」な書棚の配置は、そうした「出会い」の機会を広げるものとなっているといえます。
その他にも岐阜県産のヒノキが使用されている美しい天井や、小さい子が寝転んで絵本を読めるスペース、織田信長がいたことで有名な岐阜城と金華山を眺望できるテラス席などもあり、総じてずっといたくなる居心地のいい空間でした。現に居心地が良すぎて長く滞在してしまい、この後予定していた高校の同級生との飲み会にもちゃんと遅刻させていただきました。
また、司書の方が作成した掲示物の展示スペースも充実しており、司書の職場体験をした子供による図書のキュレーションや、メディアコスモスの歴史、装丁に関する特集や、ビジネスマナーについての掲示物などが見やすいグラフィックで展示されていました。これこそ司書の腕の見せ所といえましょうか。
ちなみに、私はこの展示から「思いもよらず」に「まちライブラリー」という草の根の活動があることを知りました。(次回のフィールドレビューのネタはこれで決まり!)こうした司書の皆さんの努力にはもっともっとスポットライトが当たられていくべきだと思います。
メディアコスモスの見学を通して思うのは、率直に「居心地がいい」ということでした。
少し前に、ツタヤ図書館が洋書の空箱を大量発注してちょっとした議論を呼びました。大方の意見は「そんなものに税金使うくらいなら蔵書を増やせ、図書館の存在価値は蔵書の量と質で測られる」といった類のもので私も大方は賛成します。ですが、ツタヤ図書館がおそらく演出しようと試みた「おしゃれな空間」が持つ魅力については馬鹿に出来ないと思うのも、正直なところです。便宜的に読者層を「何したって本を読む人」、「何したって本を読まない人」、そして両者の間にどちらでもない「中間層」がいるとした時、この中間の人をどう呼び込むかが鍵となるのはどんな業界にも通じることだと思います。純血主義や修養主義的に「何したって本を読む人」のみを想定していては多様な読書文化を失うことになりかねません。自分も幼い頃に旧岐阜市立図書館に行った経験を思い返すと、図書館という空間が作り出すあの独特な雰囲気が目に見えない壁となって本の面白さそのものにアクセスすることの障害になっていたように思えます。一方で、メディアコスモスのフラットな雰囲気はその逆で、本それ自体の良し悪し以外の壁がなく近寄りやすいです。現に旧館の末期と比べると来館者数は10倍近く伸びているようです。今まで図書館とは縁のなかった人々を惹きつけている証拠です。この来館者の裾野の拡大によってどれだけの「本との出会い」が生まれたのでしょうか。
ここまでメディアコスモスをべた褒めしてきましたが、まだ開館して2年しか経っていません。このまま新しい人の流れを生み出し続けられるのか、今後の動向に注目したいです。皆さんも岐阜にお立ち寄りの際には『君の名は。』の聖地巡礼や鵜飼見学の前に、メディアコスモスにぜひご立ち寄りください!
詳細は「みんなの森 ぎふメディアコスモス」のHP(http://g-mediacosmos.jp)にて
(館内テラスから撮影した岐阜市のシンボル、金華山と岐阜城)