今回のフィールドレビューは修士課程のジンが担当いたします。皆さま、落語はお好きですか?私が落語のことを知ったきっかけは2005年TBSで放送された『タイガー&ドラゴン』というドラマでした。登場人物たちを取り巻く現実と、ドラマの中に出てくる古典落語の噺とが絶妙にリンクしており、とても面白い作品です。それからいつかは落語を生公演で見てみたいとずっと思っていたのですが、先日ついにその願いが実現しました。
4月21日、神楽坂毘沙門寄席では毎年恒例という「菊之丞の会」が開かれました。最初は前座の方が出て短めの噺で場を和ませます。その後、真打の古今亭菊之丞師匠が登場し、本公演が始まります。演目は休憩時間を挟み二つ。
日本語を母国語としない者として、どこまで理解できるのだろうと開演前は少し不安に思っていましたが、いざ噺が始まるとその余りにも滑らかな流れで、自然と話の中に吸い込まれていきました。勿論知らない単語や表現などは沢山出ていたのですが、演目の内容自体が、お城に呼ばれて入った平民の言葉が重役や殿様の使う言葉とは大きく違っていてお互い理解できず、その会話の食い違いから笑いを取るものでしたので、むしろ他の観客と同じ感覚で楽しむことが出来ました。
発声の仕方や声色を少し変えるだけで色んなキャラクターが瑞々しく表現され、そこにちょっとした仕草が加わることで説得力が増していく。その素晴らしい話芸のために、演目の時間が一つの噺で1時間にも及んでも、集中力を失うことはありませんでした。また、絶えることなく話し続けるなかでも時折り絶妙な「間」を設けることで、人物の深い感情を表現したり観客に笑う時間や余韻に浸かる時間を与えるタイミングセンスには心から感服しました。
現在テレビや舞台で活躍しているお笑い芸人の源泉を辿っていくと、そこには腰から上だけの動きで物語を伝えるこの伝統芸能が大きく存在するだろうなと、今回落語公演を生で見て実感しました。最もシンプルだけれど同時にとても贅沢な時間でした。