「壁を越える」に参加しました

今回のフィールドレビューは博士課程の王楽が担当いたします。10月の末に、東京大学学際情報学府と清華大学新聞伝播学院による共同シンポジウム「壁を越えるⅢ:スマート・アジア」が、万里の長城の麓にある清華大学の石門山荘において開催されました。

晩秋の雰囲気が満ち溢れる北京。昼は各自の研究発表、夜は懇親会という形で、非常に充実した石門山荘での三日間でした。一日目は、日中両国の学生から、映画からコンピューターまで幅広いメディアをめぐって、多様なアプローチによる非常に学際的な発表がなされました。スポンサーである朝日新聞の担当者の方からも、日中関係に関する発表がありました。二日目は全員長城に登るイベントでした。いかに険峻な道路であろうとも、いかに足膝が矢に当たったような疲労痛を感じても、参加者は研究の話や情報交換をしながら、足も止めずに登り続けました。その痛みは、のちにいただく北京ダックによって癒されることになります。

今回のシンポジウムをきっかけに、私は久々に中国の大学院生の皆さんと留学生活について意見交換することができました。ほとんどの学生の皆さんが海外に留学したいと考えていること。そこに中国の大学らしい雰囲気を感じました。海外の大学院生がどのような研究を行っているか、いかに論理的に思考しているか、研究問題と研究方法がどのように異なっているかなどが、日中両国の参加者の間で広く共有されていました。

東京大学の学生として参加した私は、精華大学の学生による発表を興味深く拝聴しました。とりわけ、現在の中国におけるインターネット検閲制度や国家主席のイメージ構築など、かつてタブー視されていたテーマに取り組まれている姿は、とても印象的でした。政府と一定の距離を置く研究の環境が、北京という地でしだいに形成されていっているのだなと感じました。

「壁を越える」と題する東京大学と清華大学の共同シンポジウムは、両大学の学生間の学術交流を掛け橋とする素晴らしいパブリックディプロマシーの実践です。現在どんどん悪化している日中関係。「嫌中」と「反日」の雰囲気を醸成させようとしている両国のメディア。そんな中、両国側の学生たちは、このシンポジウムを通して、感情的な認識やステレオタイプを脱し、自らの体験と理智で隣国を改めて認識しようとしていたと思います。

感情的な嫌悪から脱出し、理性的に相手を理解すること。それこそが、真の「相互理解」ではないでしょうか。