洋画タイトルの翻訳事情

皆さんこんにちは。今回のフィールドレビューは修士1年のエキン・ジェレンが担当します。今回は、TSUTAYAでの調査をご報告したいと思います。

なぜTSUTAYAについて書くのだろう…と疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、このような大型ビデオレンタル店では、DVD化された海外映画やテレビドラマに直接触れることができます。つまり、私が本当に書きたいのはTSUTAYA自体のことではなくて、洋画DVDのタイトルの翻訳に関するお話です。

日本語でのタイトルがわかりにくくて、私はとりあえず借りてみるということが多々あります。『10日間で彼女の心をうばう方法』という日本語タイトルのDVDも、とりあえず借りてみた映画のひとつです。これは、DVD発売されたジェニファー・アニストン出演のハリウッド映画で、原題のタイトルは “Management” といいます。

Management-us

Management-jp

映画のタイトルの翻訳が「おかしい」と言われるのは世界共通です。インターネットなどでよく、「日本の翻訳レベルが低い、日本の翻訳がおかしい」などのような批判も目にしますが、これは日本に限ったことではなく、日本固有の問題として定義できるかは疑問です。ですが、日本語には日本語特有の事情もあるということは事実です。

日本語には、他の言語と違う重要なポイントがあります。それは、カタカナです。他国では「訳されていない」とされるものは、日本語ではカタカナ語にするだけで一応、「日本語翻訳」とみなされます。しかし、実際にカタカナ語化していることで意味が通じるようになっているのか、つまり翻訳としての役割を果たしているのかは微妙なところです。例えば『ロード・オブ・ザ・リング』= “Lord of the Rings” の場合はどうでしょう。ここにおける「ロード」は日本ではより日常的に利用している “road” (道)なのか、それとも日本語では適切な訳語のない “lord” なのか。

もちろん、カタカナ語化しやすくするためにカットされた部分も問題点の1つです。リングは1つだけなのに “Rings” とわざわざ複数形にしたのには理由があるはず。では日本語訳でその意味はどこに行ってしまったのでしょうか。この場合、日本では『指輪物語』という小説の翻訳タイトルが一般的であるため救いになっていますが、疑問に思える例は、実はカタカナだけでも多く存在しているといえます。

もう1つは、形容詞やサブタイトルを利用して元々のタイトルをサポートする方法です。これは特にテレビドラマのタイトルにおいてみられます。”Dharma & Greg” は『ダーマ&グレッグ ふたりは最高!』というタイトルになり、2人が最高かどうかは前もって視聴者に知らせないといけなかったのか、という疑問をもたらします。

しかし、日本の場合で1番面白いのは、タイトルに「恋」という言葉を入れたがるところです。女性がスーパーヒーローという立場で登場し、強い女性の象徴となったフェミニスト的な作品として海外のテレビドラマ研究において重要な “Buffy The Vampire Slayer” は、日本では恋愛物語『バッフィー 恋する十字架』となってしまい、 天才オタクたちの日常を描く “The Big Bang Theory” は『ビッグバン★セオリー ギークな僕らの恋愛法則』となってしまっています。これらのドラマの内容に「恋」は関係ないのかというとそうではないですが、全話をこのくくりにする理由はどこにあるのかは興味深い話です。もしマーケティングに話を及ばせるならば、日本の消費者である視聴者は恋愛ものを見たがるのかという問いをたてざるをえないと思います。

そして、最後の1つはタイトルの完全なる変更です。内容に基づいた翻訳の場合、気付かないうちに内容をすべてばらしてしまう危険性や、翻訳によって視聴者の「見所」が決められてしまう危険性があります。しかし、何よりも危険なのは、内容とも関係のないタイトルの場合です。『10日間で彼女の心をうばう方法』ですが、内容と関係のないところに入っています。アニストンのキャラクターは映画の中で、結婚し、離婚し、妊娠しと、どう考えても10日間で片付けられない状態です。私は、映画が終わった後でタイトルをもう一度確かめて、せめて10ヶ月にした方が妊娠の説明になっていたのかなと思いました。

では、このようにタイトルを全て変更するのはなぜでしょう。直訳では解決できない問題なのでしょうか。そうです。文化の違い、考え方の異なる国の間に行われるこのようなやり取りにおいて、視聴者の心に届かせるにはこのような変化が必要です。例えば、「比喩」や「皮肉」の使い方の違いで意味するものが違ってきます。 “How to Steal a Million” では、アメリカで有名な “How to” というタイトルのDIY本に触れている一方、日本語では『おしゃれ泥棒』として翻訳され、映画の主人公の別の個性を主張しようとしています。このようなアメリカの事情は一般的には日本人に理解できないので、ここでは「おしゃれ」と「泥棒」という二つの単語間の日本風の皮肉が表現されています。

これからも視聴者に批判され続けるであろう洋画タイトルの翻訳ですが、必ずしも良くないとは言い切れないものでもあります。翻訳における疑問は人の数ほどあり、言語の認知にも関わる不思議な問題です。皆の心に届くように翻訳するのは、非常に難しいことなのです。