皆さんこんにちは。2013年を迎えてはや2ヶ月、寒い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか?4月からの新年度に向けて、いろいろと準備をし始める人もいらっしゃるのではないでしょうか。今回のフィールドレビューを担当する私、粟屋もその一人です。
修士論文の提出と審査を終えまして、今年3月に本研究科の修士課程を修了予定です。今回は私にとって最後のフィールドレビューとなりますが、皆様どうかお付き合い下さいませ。
さて、今回のフィールドレビューでは、前回、前々回と引き続き「マンガ」について少々お話致します。私が修士論文で「マンガの制作現場」に焦点を当てる研究を行ったことは、前回のフィールドレビューでも述べました。マンガ制作のシステムが歴史上どのように形成され、今後どのように変化し得るかを分析・考察していきました。そして今回は、修士論文を書き終えて私が考える、「マンガの未来」について少しお話したいと思います。
本や雑誌の売上が落ち続け、長らく「出版不況」と言われる状態が続いているのは皆様もご存知の通りです。そして出版物の売上の約3割を占めているマンガもまた、1995年をピークにその売上は縮小しています。『ONE PIECE』(尾田栄一郎)など、一部のマンガの売上数が非常に高いためか、マンガだけは出版不況に当てはまらないと考えている方も中にはいらっしゃるようですが、マンガ市場全体では、厳しい状態に置かれているのです。
マンガ市場が縮小している背景には、多くの要因が絡み合っています。経済不況、インターネットメディアの発達による娯楽の分散化、中古書店や漫画喫茶の増加、マンガ雑誌・単行本の種類の超過などなど、要因は一つに絞る事はできません。
しかし、読み手のマンガを購入する機会が減少しつつあるのは揺るぎない事実でしょう。そして同時に、従来の方法でマンガを出版し続けても、状況が改善される可能性は低いと言えます。「従来の方法」とは、マンガ家が出版社のマンガ雑誌を通じてマンガを発表し、作品が単行本化され、出版社の手により販促されるという、これまで一般的だったマンガ制作・販売方法のことです。マンガの単行本化が一般化したのが1970年代ですから、実に40年近くの間、このシステムが変わらず維持され続けていたことになります。
しかしここ数年で、このシステムが少しずつ変化している兆候も見られているのです。インターネットの発達で、出版社を経由せずマンガ作品をウェブ上で公開することが可能となり、またSNSなどの発達で、作品の販促を自ら行うマンガ家が登場してきました。マンガ家はこれまで、作品を描くという作業以外は、作品の発表や販促などのほとんどの作業を出版社に依存してきました。それが、自らをプロデュース、つまりセルフ・プロデュースを行うマンガ家が登場し始めたのです。この方法では大ヒットを記録するのは難しくても、一定数の読者を常時獲得することは可能です。
先日、オタク評論家としても著名である岡田斗司夫氏が、自身が配信しているブログにて次のように発言されていました。
「ジャンプ編集部でも、どの編集部でも言われてるんですけども。もう、これからは『ワンピース』のような国民作品という、巨大でいつまでも愛されるような作品っていうのを作ろうとするのは無理だと。そうじゃなくて、もっと小さい話。単行本5巻か10巻ぐらいで終わってもいいような、いわゆる『デスノート』とか『バクマン。』型の、話が簡潔で、終わりが見えても構わない。そして、今、今年面白いと思われたら、2年後にはブックオフで大量に安売りされても構わないような漫画しか、もう生き残れない。ジャンプ編集部ですら、そういうふうに思ってるんです。」*注
岡田氏のこの言葉に、私は妙に納得してしまいました。マンガが売れなくなった、とは言いますが、それはかつてのように大ヒットとなる作品の数が少なくなったと言えるかもしれません。決してマンガの質が落ちたというわけではなく、「皆が読んでいるマンガを読んで共通の話題を持ちたい」という読み手の欲望が薄れたとも言えるでしょう。読み手は既に、「誰もが楽しめる作品」ではなく「自分が楽しいと思えればそれで良い」と思う傾向にあるのかもしれません。趣味を同じくする者同士がネット上で簡単に繋がることができる時代になったことも背景にあるのでしょう。これはマンガに限った話ではありませんが。
とどのつまり、1995年頃のマンガ市場最盛期のようなマンガの受容・消費のされ方はもう起こり得ないと考えるのが妥当だと思います。マンガは「文化」でありつつも、同時に商業的価値を持つ「商品」ですから、経済状況や外部環境に変化が生じればマンガの在り方も変わってしまうのは仕方のないことだと言えます。「マンガ」の存在自体はもうしばらく存続すると思われますが、販売方法であれ表現方法であれ、何かしらの形でマンガも変化を強いられることになるでしょう。
少々印象論的な話になってしまいました。何はともあれ、マンガが今後も発展し得るのか、それとも近い将来に「過去の遺産」となってしまうのか、その明確な答えはおそらく誰も分からないでしょう。ただ、常にマンガに親しみ、マンガ市場全盛期を経験した私個人の身としては、マンガがこれからも日本の文化であり、娯楽産業として存続し続けて欲しいと願っています。
しかしこうした考えが、既に「過去から脱却できない、過去の栄光にしがみついている状態」なのではないかと、しばしば不安になってしまうことも本音です。かつてどんなに栄えたものであっても、淘汰される時は淘汰されてしまうのですから。過去の栄光に縛られるのではなく、「今」をどうするのか。マンガの未来がどうなるかは、まさに「今」にかかっています。「今」の積み重ねで、マンガの未来も形作られていくのではないでしょうか。
*注)【岡田斗司夫のニコ生では言えない話】大企業が恐竜のように滅びても、哺乳類になって生き延びよう第21号(2013年2月18日配信)http://ch.nicovideo.jp/ex/blomaga/ar118075