今回のフィールドレビューは、M1の山中康司が担当させていただきます。今年の4月に学際情報学府に入学して以来、毎日が新しい出会いの連続であり、慣れないことに右往左往しながらも、ここから自分の研究とその先の未来が開けていくのだという期待に胸を躍らせています。
私は研究テーマとして、「メディア」と「地域」の関わりについて関心を持っています。そこで今回のフィールドレビューではそのなかでも特に「コミュニティメディア」について、松浦さと子・川島隆編『コミュニティメディアの未来』(晃洋書房、2010)をもとに紹介します。
松浦さと子氏は龍谷大学政策学部教授、川島隆氏は滋賀大学経済学部特任講師であり、ともに非営利放送についての研究を行っています。この著作では二人のようなメディア研究者だけではなく、コミュニティメディアやそのネットワークの運営に携わる方々がそれぞれの事例を紹介し、理論と実践をふまえてコミュニティメディアの必要性や課題を提示しています。
序章でコミュニティメディアの紹介とその必要性を論じ、Ⅰ部ではコミュニティメディアをひとびとが生きるためのインフラという視点から捉え、Ⅱ部では社会運動がコミュニティメディアをどのように活用してきたのかが紹介されています。そして、Ⅲ部ではコミュニティメディアの制度構築の実例が紹介され、Ⅳ部ではコミュニティメディアが地域社会やそこに住む人々に何をもたらしているのかということを述べた後、終章では未来への提言として今後の課題が提示されています。
今回はそのなかでも特に序章をとりあげ、コミュニティメディアとはなにかということについてみていきたいと思います。この著作の中ではコミュニティメディアとは①非商業性、②国家、政府からの独立、③市民の主体的参加、を特徴とする小さなメディアと定義されています。言い換えるならば、コミュニティメディアは企業からも行政からも独立した、市民のメディアだと言うことができるでしょう。具体的には、コミュニティFMや地域のフリーペーパー、SNS、壁の落書きや路上パフォーマンスまでもコミュニティメディアのひとつとして挙げられています。
さらに、その必要性と意義について「公共圏」、「社会運動」、「アソシエーション」という三つの視点から論じられていきます。グローバル化が加速するなかで、ハーバーマスが述べたような「生活世界の植民地化」がますます進む今日では、市民が共通の関心ごとについて語り合う「公共圏」の再構築が求められています。その「公共圏」の再構築を担う「アソシエーション」として、コミュニティメディアが期待されており、そうした「公共圏」を母体として社会のさまざまな問題解決に取り組む「社会運動」が生まれると述べられています。
このように、序章では主にコミュニティメディアの社会的意義について述べられていますが、私が注目したいのは、序章の最後に少しだけ触れられているコミュニティメディアの「物語性」についてです。コミュニティメディアを媒介として市民が主体的に紡ぎ、共有していく「物語」は、それ自体がコンテンツとしておもしろいものなのではないか。また、鶴見俊輔が述べた、芸術と生活の境界線上にある「限界芸術」とも通じるものがあるのではないか。それは「大衆芸術」に分類される既存のマスメディアのコンテンツにはない魅力を持っているのではないか。このような問題意識を私はこの著作から得ることができました。
このようにコミュニティメディアについて、制度としてではなくその内容に目を向けて、さらに具体的にどのメディアを対象にするのか検討しながら、今後研究を発展させていきたいと考えています。今回取り上げた『コミュニティメディアの未来』は、海外、日本、ともに事例を多く取り上げながら論点がまとめられているので、コミュニティメディアに少しでも興味がある方はその入り口としてぜひ読んでみてください。