今回のフィールドレビューは修士課程のジェレンが担当します。今回は、 “Buffy Studies” (バフィー学)という研究分野の出現のきっかけになるほど、アメリカのテレビドラマ史に影響を与えたBuffy the Vampire Slayer (1997-2003)について書きたいと思います。
Spice Girlsが “Girl Power” と呼びかける中、90年代のアメリカのテレビドラマの女性像も変わり始めました。Buffyは、最初に現れたのは92年の同タイトルの映画でした。しかし、カルトドラマとして強いファンベースを持つようになったのは、97年のドラマの放送以降です。
Buffyが最初に注目を浴びたのは、主人公が「強く戦う女性」だからではありませんでした。彼女は、一つの世代に一人しかいない「選ばれた者」でした。これは、それまでに何度もヒーロドラマで目にしたパターンでもあります。しかし、Buffyにおけるこのレガシーは、世界の始まりとともに、部族の長老の「影の男」達によって、「魔物」の力を女性に持たせることで始まり、古代の信仰によるものでした。彼女は、タイトル通り、吸血鬼と戦い、魔物を殺す巨大な力を持つ女性でした。クリエーターJoss Whedon (Avengers 2012)も、何度もフェミニストであることを明らかにし、自分が作りたかった「強い女性」について語っています。しかし、ジェンダー研究者が特に注目を置いたのは、ただの強い女性としてのBuffyではありませんでした。
Buffyの放送時期は、Charmed(1998)などと女性が主人公で、魔物と戦うテレビドラマが数を増した中でした。基本的にこれらの女性主人公の多くは、自ら魔法を使う者が多く存在していました。「良い魔女」としての女性像を広めるこれらのテレビドラマも「強い女性」を強調してきましたが、Buffyには、必ずしも「善」と「悪」を分ける境界線が存在していませんでした。Buffyに現れる、主人公以外の女性は、Buffyの親友で、「Good Guys」の仲間であっても、魔女としては人を殺す敵役にもなり、最後に自然と同時に動く女神にもなりました。つまり、女性だから、魔女だから、主人公だからとのような分け方が存在しないフェミニズムがBuffy研究の一部を作りました。一方、何よりも反響を及ぼしたのは、アメリカの民間テレビ放送初のレズビアンキスシーンでした。
Buffyにおけるフェミニズムは、ただ彼女を男性と同様な立場に置くという意味を持っているわけではありませんでした。彼女は、ハイヒールなしでは外に出ない、金髪で、青緑色の瞳のチアーリーダーで、アメリカにおける「守りたい可愛女の子」の表象でした。彼女は、「これらにもかかわらず強い」わけではなく、「強いからといってこれらを譲らない」ところにありました。これが、テレビに映るフェミニズムとして研究すべきものとみられたのでしょう。
少し残念なのは、これほどフェミニズム研究の要素を含むBuffyは、タイトル翻訳によって日本では別のBuffyへと変わっているところです。『バフィー・恋する十字架』となってしまうと、恋愛ドラマに急に変わってしまったBuffyはどのような女性像を日本の視聴者に与えたのか気になる点でもあります。
しかし、ジェンダー研究に多くの材料を与えるこのテレビドラマが、自らの研究分野を持つようになったのは、ジェンダーに限らない「革命」の多さにありました。
その中でも、私にとってもっとも興味深かったのは「音」の利用でした。例えば、現在では、長く続いているどのアメリカドラマにもある「ミュジカルエピソード」が初めてテレビ放送で試されたのはBuffyでした。それまでに、そして今も、テレビドラマにおいてのミュジカルエピソードは、元々存在している曲を役者が歌うというスタイルであり、例えば、現在世界中でヒットしているミュジカルドラマGlee(2009)でさえ、 最初の2話で試した新しく作られた曲の利用をそれ以降やめました。Buffyの製作者は、ミュジカルエピソードのために、話に沿った曲を作り、全部で10曲に至るアルバムにもまとめています。Buffyを見た人の多くは “They got the mustard out” (マスタードの汚れを取り除くことができた)と歌えるのでしょう。
しかし、「音」の利用はこれだけでなく、BGMを全く使わないエピソードの存在も不思議な試みの一つであります。ファンタジーの中で、主人公の母の死という現実を強調するために、製作者が取ったこの行動は、ドアの開け閉めの音、母に心臓マッサージしようとし肋骨を折ってしまった音などが、結果として記憶に残る “BGM” となったのです。また、声を無くし、誰も話せなくなった丸ごと一話が存在するなど、不思議な世界はBuffyの7年で144話に広まっています。
最後に、このテレビドラマの紹介をしたかった理由は、私がテレビ研究をしたいと思ったきっかけとなったテレビドラマであったからです。まさに、このドラマを見ている最中、友人にひたすらエピソードごとの注目するところを説明している中、このような世界を作るテレビのことを人に深く知らせたいと思いました。アメリカのティーンテレビでおすすめは何かと聞かれたら、100%パーセントBuffyだと答えられるのは、もちろんファンであるからとも言えますが、現代のアメリカのテレビドラマのコミカルなダイアログへの通り道はここにあるからとも言えます。
このドラマのファンが、自分が何をしていいかわからない時に使う言葉が「WWBD」 (What would Buffy do?) です。それほど真剣なファン層を持っているこのテレビドラマは、皆さんにどのような気持ちをもたらすのでしょうか、ぜひ一度は見ていただきたいと思います。