7月
15

猛暑にも負けない「教養番組」のアツさ!

作者: Arai Shun | 2018年7月15日Posted in: フィールドレビュー

今回フィールドレビューを担当するのは修士課程2年の荒井です。今回は、今年の5月末に放送されたNHK『歴史秘話ヒストリア』の「神と仏のゴチャマゼ千年 謎解き!ニッポンの信仰心」という回についてレビューしたいと思います。

「あなたが信じている宗教は?」

という問いかけで始まるこの番組は6世紀に日本に仏教が輸入され、それが土着の信仰と融合されていく過程と、それがやがて明治時代の廃仏毀釈により分離していく過程を描く構成で、ナレーターにお笑いタレントのゆりやんレトリィバを、また伊野孝行さんのポップなイラストを採用することで、宗教というややセンシティブな内容の角を和らげるような番組となっていました。実は最近の教養番組、攻めています。

(NHK『歴史秘話ヒストリア』のHPより抜粋)

番組では一貫して日本の信仰のいい意味での「ゴチャマゼさ」をテーマとすることで、「純粋なもの」を称揚する現代社会の風潮に婉曲的に一石を投じようとしたことは、番組後半の廃仏毀釈の描き方からも窺えます。昨年度のギャラクシー賞のテレビ部門で優秀賞を受賞したNHK『100分deメディア論』しかり、最近の優れた教養番組には現代を問い返す鋭い批評性とそれをしれっとポップに番組化してしまう巧妙さ、製作者の方の知恵があるように思います。

そして、内容もさることながらさらに惹かれたのが、番組HPの用い方でした。下の写真のようにHPの最下部には「参考文献」として五つの本が挙げられています。些細なことかもしれませんが、この配慮には製作者の方たちの文化生産者としての矜持を感じました。

(NHK『歴史秘話ヒストリア』のHPより抜粋)

昨年、ある地方局のドキュメンタリーが、博士学生の論文の内容を、参照元を明示せずにあたかもオリジナルなものとして扱ったのではないかと問題になり、その学生が所属する京都大学文学研究科社会学専修の教員の方々が声明を発表するにまで至り、ちょっとした話題になりました。

ここからは筆者の推論に過ぎませんが、当該ドキュメンタリーの制作者も悪意に基づいて制作したのではなく、これは番組制作の慣習に基づいたもので、問題を指摘された時は驚いたのではないかと思います。

社会学者の佐藤郁哉は学術出版社の分析を通して「文化生産の生態系」という概念を提出しました。詳細は省略しますが、その生態系を支えているのは、それへの貢献が狭量に認識され「文系不要論」の矢面に立たされる人文社会系の研究者や出版社、ジャーナリスト、テレビディレクター、あるいはその読者や視聴者、そのほか把握しきれないほどの実践者だと言えます。それらが互いに持ちつ持たれつつの関係を築きながら、その生態系は持続してきました。

ただその一大供給源であった大学が縮小する時代にあって、その生態系を支える「協同管理者」としての自覚を各々が失えば、やがてその生態系もろとも貧しくなりうると思います。その意味で、先の問題は単なるテレビとアカデミズムの文化の違いに矮小化されるべきではなく、より広く「文化の生態系」の「協同管理者」としてその是非が問われるべきだと思います。

こうしたことをつらつらと考えていたこともあり、『歴史秘話ヒストリア』の参考文献を明示するその配慮は、その番組が拠って立つ生態系へのリスペクトが表れたものであり、些細なこととはいえ素敵な試みだと思います。

今回紹介したような名作教養番組は、まだまだ数多くあると思います。皆さんも、ぜひ教養番組に注目してみてください!