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震災報道から学んだ教訓

作者: BALYKOVA NINA | 2014年4月23日Posted in: フィールドレビュー

こんにちは。今回のフィールドレビューは、研究生のバリコーヴァ・ニーナが担当させていただきます。ちょうど今、私の母国ウクライナでは、歴史的な出来事が次々に起こっています。こういうときには冷静な状況分析が非常に難しくなります。いくら情報を集めても、絶え間なく変わり続ける状況の中では、明確な結論をなかなか出すことができません。

要するに次のように考えれば、たとえ条件と事情が異なった他の大きな事件でも、少なくとも一つの共通点があるといえます:ある出来事を体験している瞬間はとても大切で二度とないものだが、その瞬間から得られる教訓は、時間が経たないと見られないものである。

私がこのように考え始めた理由は、歴史的な出来事の一つである東日本大震災に関係があります。先月7日に、東京・平河町の海運クラブで放送文化基金によって「3.11とメディアのこれから ―震災、原発事故からの教訓―」という研究報告会が開催されました。私は原発事故とそのメデイア報道に関する研究を行っているので、その話題がとても興味深く感じて参加いたしました。

この報告会のパネルディスカッションでコーディネーターを務めた丹羽先生が、発災直後にはメデイア学者はテレビが震災報道で果たした役割を冷静に見つめることが出来なかったが、大震災からすでに3年間が経った今、ようやくその役割を改めて見直すことが出来るようになってきたということを指摘されていたのです。それではこの報告会によって、震災報道からどんな教訓を得られたのでしょうか?

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報告会は二つの部分から成り立っていて、前半は東日本大震災とメディアに関する調査・研究の結果発表、後半はその結果についての報道関係者を交えたパネルディスカッションでした。

調査・研究の発表者としては、まず前大妻女子大学教授の藤吉洋一郎さんが「被災者は放送をどう受け止めたか 〜岩手・新潟アンケート調査より〜」というテーマで報告しました。藤吉さんの研究は津波被災者(岩手)と原発事故広域避難者(新潟)を対象としていて、アンケートの質問の中には「避難のきっかけ・避難しなかった理由は何か?」「地震・原発事故の数日間後・一ヶ月後知りたかった情報は何か?そして今しりたい情報は何か?」「情報を得るため一番役に立ったのは何か?」・・・などがあって、幅広い視点から検証していました。

「災害報道ではどのような問題があったか」という質問に一番多かったのは、「取材対象の地域が偏っていて、報道が少ない地域では支援に影響が出た」「生活に関する情報をもっと放送してほしかった」「原発事故についての説明が不明確だった」というような答えでした。

私が特に面白く感じたのは、「信頼できるメディア」という質問に三陸沿岸被災者と新潟広域避難者の答えを比較した調査でした。それによると、原発避難者のテレビ・ラジオ・新聞への信頼が津波被災者よりずっと低い一方で、インターネットへの信頼がずっと高いということが明らかになりました。やはり原子力に関するマスメディアの情報は、より懐疑的に見られていると言えるでしょう。

二番目の報告には、法政大学教授の藤田真文さんが「放送局は東日本大震災にどう向き合ったか 〜岩手・宮城・福島全テレビ局インタビュー調査より〜」というテーマで、ローカルテレビ局の報道部長クラスの対象者をもとにした研究について述べました。この研究は視聴者側ではなく放送側の視点を紹介していて、非常に面白いコントラストでした。

たとえば、「災害地域のメディア報道には偏りがある」という課題に関しては、次の理由が挙げられるそうです:「放送局自体が被害を受けて、カメラなどを失って、燃料・飲料水の不足を体験していた」「停電や電話通信の問題があった」「ある地域の放射能汚染により退避指示が出された」など。それに、全国各局からの支援がありましたが、勤務分担や責任の所在への認識に差異が出て、協力関係を上手く築くことが出来ませんでした。原発事故の際には、専門知識や専門家との連携も不足していました。

それに対して、ローカル放送局が有効に機能した部分もありました。例えば、震災によって市役所・警察署などの自治体行政の機能が麻痺してしまった中で、ローカル局が緊急時地域情報センターになって、安否情報や生活情報を地域住民に伝えるとともに、住民からの情報を集めて、地域のデータベースとして働いていました。さらに、地震後の数日間にわたって停電が続いていて、多くの住民がテレビを見られなくなったので、IBC岩手放送が「被災地にラジオを送ろうキャンペーン」を始めて、集まったラジオは取材に向かう記者やカメラマンを通じて避難所に届けられました。

最後の発表では、東京大学教授の目黒公郎さんが、デジタルアーカイブを使って内容分析を行った「データから見た報道の地域間格差」という研究の結果についてでした。この報告によって、報道された地域と被害を受けた地域との関係の分析から、全局で特定の地域に報道が集中してしまい、被害が大きくてもテレビ報道が少なくなってしまった地域があることがさらに明らかに見えました。この結果から、あまり報道されなかった地域に配布される義援金やボランティアの数が少なくなってしまったという恐れが考えられます。

この格差の問題を解決するためには、放送局が事前の協議に基づいて、担当する地域や対象項目の分担を決めて効率的に取材し、各局が担当した特定の内容を報道するように努力する必要があると指摘されていました。

後半のパネルディスカッションではNHK解説主幹の山﨑登さんと福島中央テレビ取締役報道制作局長の佐藤崇さんが発表者に加わって、東日本大震災報道においてメデイアが直面した課題はなぜ現れたのか、そしてどうやって解決すべきかということについて話し合いました。放送関係者たちは大震災のようなことを経験したのは初めてだったと述べ、今回の研究報告を将来のための貴重な教訓としていかしたいとコメントしました。

私はこのようなメデイア関係者と研究者との協力がとても効果的で大切なことだと深く感じました。他の分野の人との意見を交換することは、私たちの過去・現在・未来のビジョンがより明確になることにつながり、貴重な教訓も現れるはずだと思います。

(パネルディスカッションは、放送文化基金のYTチャンネルでご覧になれます。)