こんにちは、鈴木麻記です。今回のフィールドレビューは『天使の矛盾 〜さまよえる准看護婦〜』(札幌テレビ放送、1997年1月26日、55分)というドキュメンタリーと、その後の状況について考えてみたいと思います。
このドキュメンタリーは、1990年代の看護師制度の実態をレポートしたものです。さて、皆さんはご存じでしょうか。看護職のなかでも、看護師には2つの資格が存在します。看護師と准看護師です。両者の資格の違いは外部の人間にとってはわかりづらく、これは1990年代の時点で大きな問題となっていました。
(丹羽美之編, 2020,『NNNドキュメントクロニクル1970-2019』東京大学出版会: 806-807)
このドキュメンタリーは看護師と准看護師の実際の職掌の違いはないにもかかわらず、待遇には大きな格差が生じていることを明らかにします。たとえば、准看護師は医師や看護師の指示がないと業務にあたることはできないとされていますが、そうした法定業務の範囲をこえて、実際の現場では働き、その責任も負わされてしまっている姿が映し出されます。
さらに看護師養成制度には「お礼奉公」という制度があることも明らかにします。これは病院に看護学生として勤務しながら看護師資格を取得するというもので、看護師資格取得後、当該病院で何年間か勤務を約束させられます。つまり病院に資格取得のためのお金を奨学金というかたちで貸してもらうかわりに、資格取得後はその病院で働かなければならない、退職を申し出れば多額の違約金が請求されるということです。
1996年、上記のような点を問題視し、また看護職員自らの社会的地位の向上も目指し「准看護婦問題調査検討会」は、准看護婦制度の停止と、看護資格の統合を厚生省に提言しました。一方、准看護婦に安い労働力を期待する日本医師会は制度の存続を求めていました(准看護婦・厚生省の文言はすべて当時のものです)。
1996年の時点では、制度停止と資格統合という結論が出されましたが、先にも述べたように准看護師制度は現在も存続しています。日本医師会と日本看護協会の対立は、1990年代以前から何十年と続いており、それは現在も解決に至っていないということです。
しかし現在、准看護師を取りまく環境は変化しています。「最貧困女子」などと女性の貧困が取りざたされるなかで、准看護師がそうした社会の安全弁として機能するようにもなってしまったのです。問題視された「お礼奉公」も、看護職の就職難が問題になるなか、「就業保障」として現在も存続しています。
そうした側面を無視することができないと同時に、だからこそと言ったほうが正しいかもしれませんが、開業医制度と結びついているために起こっている准看護師の職場環境の問題が改善されていないということにも目を向けるべきでしょう。
早くこのような論文が書きたいなと思います。