この雑誌は、1896年にドイツで創刊された、絵入り雑誌です。多色刷の紙面が美しく、絵入り記事の諷刺性の高さや、広告の視覚性の多彩さなど、注目すべき点の多い雑誌になっています。ドイツでは、これと同時期に『パン(Pan)』や『ユーゲント(die Jugend)』などの雑誌が次々と創刊されていました。
これらの雑誌は、「デザイン/商業美術」への関心の高まりを背景に登場しています。18世紀の産業革命以降、製品に施す装飾デザインあるいは広告の技術者の養成が、国家経済的な急務になっていました。イギリスでは、1851年のロンドン万国博覧会を経て、装飾芸術の地位を高めようとする「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起こっています。
こうした近代の新しい芸術思想・運動が西欧で展開したものが「アール・ヌーヴォー」であり、ドイツにおいては「ユーゲント・シュティール」だったと位置付けられると思います。この「ユーゲント・シュティール」とはその名の通り、前述の雑誌『ユーゲント』を中心に起こったものであり、『シンプリチシムス』もその同時代性のなかに位置づけられます。
さて、上記の雑誌が、漫画研究をしている私にとって興味深いのは、大正昭和期においてこれらが漫画雑誌として、漫画家らに受容されていたという点です。特に『シンプリチシムス』は岡本一平や下川凹天、須山計一など、大正昭和期の「漫画」をけん引した漫画家らのエッセイや漫画論によく名前が出てくる雑誌です。この同時代性は非常に興味深いと思います。この点については、今後、より考察を深めていきたいと思います。
今日、これらの雑誌の多くはデジタルアーカイブ化され、一般にも広く公開されています。紙面も非常に美しく、見ているだけでも楽しいと思いますので、皆様もぜひ、ごらんください。(写真は自身で撮影した、シンプリチシムスの表紙です)
参考:『ユーゲント』のアーカイブ
http://www.jugend-wochenschrift.de/index.php?id=25