みなさんこんにちは。今回のフィールドレビューは博士課程1年の萩原が担当いたします。今回は最近私が行った東京国立近代美術館の展示会について書きたいと思います。
現在、東京国立近代美術館では60周年記念特別展として「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」という展示が行われています。第1部では「MOMATコレクションスペシャル」として近代美術館所蔵の重要文化財をはじめとしたコレクションが展示され、第2部は「実験場1950s」と題して、1950年代の様々な形式の美術の展示が行われています。今回はその第2部「実験場1950s」について見たこと、感じたことを少し書きたいと思います。
第2部の展示「実験場1950s」では、1950年代において、文学、写真、映画、建築、デザイン、漫画などといった新たなジャンルを横断した芸術が生まれてきたことが表現されています。戦後直後の矛盾を包含した社会の現実に対して、そして新たな理想の構築に対して、様々な働き掛けが行われた「実験場」として1950年代が展示されています。その展示は以下の10個のテーマに分けられています。
- 原爆の刻印
- 静物としての身体
- 複数化するタブロー
- 記録・運動体
- 現場の磁力
- モダン/プリミティヴ
- 「国土」の再編
- 都市とテクノロジー
- コラージュ/モンタージュ
- 方法としてのオブジェ
以上のテーマのうち、特に私自身の研究対象に関係する「4. 記録・運動体」と「5. 現場の磁力」は非常に興味深く見ることができました。
「4. 記録・運動体」には生活を記録すること、生活に基づいた運動に訴えること、そしてそれを記録することという側面を中心に展示が行われていました。その中でとりわけ興味深かったのは、運動のための版画新聞や、プラカードの作り方を版画によって教示するものがあったりと、運動体が利用した様々なメディアが展示されていたということです。生活と運動、そしてその記録において、版画や写真、雑誌等のメディアに様々な役割が期待されていたということが実感できる展示となっていました。
また、「5. 現場の磁力」では50年代の社会矛盾に対する運動の現場に焦点が当てられています。ここでは亀井文夫によるドキュメンタリー映画である『流血の記録 砂川』が上映されています。このフィルムは1956年に製作され、日本ドキュメントフィルムの第1回作品となりました。戦後、米軍基地拡張や増設のため、日本の至る所の土地が接収されることが決定しました。その中に東京・砂川が含まれていました。これらの決定に対して、砂川では基地闘争が起こりました。このフィルムには基地闘争の現場が克明に記録されており、私自身の研究に極めて重要な映像だと言えます。言葉や文章だけでは説明できない、混沌とした生のエネルギーが映されており、基地闘争を「目撃する」ことができると言えます。
例えば、映像を見るだけで日本共産党や日本社会党の党員が多く参加していたことがわかります。なぜなら、彼らは党名の書かれた「たすき」をかけているからです。このような服装などの細かな部分は、文章化されていることが少なく、実際に映像を見ることでわかることがたくさんあります。
また、運動にとって「歌」が極めて重要な役割を担っていたこともわかりました。闘争に参加していた人々は土地の測量に来た警察と対峙し、スクラムを組み、歌を歌います。測量隊の来る前日には、その土地の住民に加え、各地から学生や労働者、活動家などが集まり、踊り、歌を歌います。このような側面もまた、映像を見ることで、その現場を「目撃する」ことができます。
これらの展示は1950年代の混沌とした時代を、未だに対象化することができずとも、現在の立場から直視するという姿勢が感じ取られる、極めて興味深いものでした。社会矛盾とそれに対する抵抗、そして暴力が点在する50年代の一側面を見ることができたような気がしました。ここで見ることのできる展示資料は、研究を進めることで、いずれは出会えるかもしれない資料です。しかしこのような国立の美術館において、他の美術品とともに広く一般へ展示されるということこそが意義深いのではないかと思います。
更に、この展示に伴って論文集『実験場1950s』が発売されているようです。こちらも読んでみようと思います。特に日本の「戦後」というキーワードに興味のある方は、是非行かれることをおすすめします。
<展示会特設サイト>http://buru60.jp/index.html