2015年10月10日(土)、東京大学本郷キャンパス情報学環福武ホールにて、NNNドキュメント共同研究プロジェクト発足記念シンポジウム「時代の目撃者――NNNドキュメントの45年」が開催されました。このシンポジウムは、NNNドキュメント・シリーズのアーカイブ活用を目指すプロジェクトが始動したことを記念して開催されたものです。
第一部では、NNNドキュメント・シリーズのなかから『ふたりの桃源郷〜最終章〜』(2013年、46分、山口放送)を上映し、制作者である山口放送の佐々木聰さんにお話を伺いました。
この番組は、山で暮らす夫婦と、それを支える家族の23年間の記録であり、2008年に第4回放送文化大賞グランプリを受賞した『ふたりの桃源郷』の最終章となっています。農を中心とした生き方、夫婦や家族のあり方、そして老い。「桃源郷」で暮らした夫婦と、その家族を追い続けたこの番組は、戦後の日本社会が抱える大きな問いのいくつかを、私たちの眼の前に提示するものにもなっています。
番組を上映したのちに、佐々木さんから、制作の契機や舞台裏、あるいはこの番組のテーマなどについて、伺いました。『ふたりの桃源郷〜最終章〜』は、現在、25年間取材が続いている番組であり、佐々木さんは2代目のディレクターとしてここに関わっているそうです。
佐々木さんのお話で印象的だったのは、取材対象者との距離感に関するものでした。ローカル局である山口放送は、山口県の人に発信することが第一の仕事であり、取材時は、自らもその地域に生きる人間・生活者であることに自覚的にならなければいけない、そうすることでお互いに緊張感が生まれるというお話でした。しかし一方で、佐々木さんは自らの失敗談も赤裸々にお話しいただき、被写体と緊張感を保ちつつも、その生き様に迫っていくということは本当に難しいと仰っていました。
第二部では、NNNドキュメント共同研究の概要や目的、現在までの活動に関する報告が行われました。研究者・制作者を交えたディスカッションでは、「時代の目撃者」としての NNNドキュメント、さらにはテレビアーカイブの意義や可能性について議論がなされました。
まず、丹羽先生から、NNNドキュメント共同研究が発足した経緯について説明がありました。具体的には、従来、テレビ番組は一回性の強いものであり、保存の試みがなされていなかったこと、現在そうした放送番組を文化財として残していく試みがNHKを中心になされていること、そうした状況のなかで民放制作の番組を研究対象とする必要性があることなどについてお話しがありました。そして、この共同研究の目的として、①NNNドキュメントのデータベースの作成、②テレビ史、ジャーナリズム史、戦後史の検証、③アーカイブ研究の方法論の開拓、という3つが挙げられました。また丹羽研究室の瀬尾さんからは、研究用NNNドキュメントデジタルアーカイブシステムについて、実際のデモンストレーションを交えながら、説明がなされました。
最後に、法政大学の藤田真文先生、山口放送の佐々木聰さん、NHKエンタープライズの伊藤純さん、NNNドキュメントのプロデューサーを務めていらっしゃった谷原和憲さん、東京大学の丹羽美之先生というメンバーでパネル討論がなされました。ここでは、NNNドキュメントとはいかなる番組であるのか、またドキュメンタリー・放送番組がアーカイブ化されることの意義と問題点について議論がなされました。
また、会場からの質問を受けて、放送番組の「提供」をどのように記録していくのかといった問題や、アーカイブ化された番組を見るということが、制作するということと、どのようにかかわってくるかなどといった問題に関しても議論がなされました。
当日は200名を超える、多くの方にご来場いただき、NNNドキュメントという番組や、これをアーカイブ研究することの意義や問題点、可能性等について様々な議論がなされました。この共同研究プロジェクトでは、今後もワークショップなどを開催し、研究成果をご報告していく予定です。今後の活動にも、ぜひ、ご注目下さい。