『総理大臣を目指した人たち』からテレビ・ジャーナリズムを考える

こんにちは。今回のフィールドレビューを担当します。博士課程の朱です。

今回は11月17日に放送されたNNNドキュメント24’『総理大臣を目指した人たち〜2024 二つの党首選から見えたこと〜』(24:55〜【拡大枠】)についてお話ししたいです。ただし、番組の内容ではなく、作り手についてです。

出典: 日本テレビNNNドキュメント24’公式サイト

『総理大臣を目指した人たち』のディレクターは現在、制作会社ネツゲンに籍を置いているドキュメンタリー監督の大島新です。外部のディレクターが番組を作るのはNNNドキュメントでは珍しいことです。NNNドキュメントは日本テレビ系29社が制作していて、特に地方局の制作者たちにとっては貴重なドキュメンタリー枠です。

では、なぜ今回の番組は外部のディレクターに任せたのでしょうか?番組の冒頭ではその理由についての説明がありました。

大島ディレクターはナレーションで、「始まりは日本テレビ政治部からの提案だった。二つの党首選のドキュメンタリーを一緒に作りませんか?」と、自分がこの番組を作ったきっかけについて語っています。そして、日本テレビ政治部長の井上幸昌は、「何か違う視点みたいなものを伝えられないかな。そういうときに僕らみたいに、永田町を常に取材をしている人間じゃない人の視点でこのビッグイベントを見てもらったら何が起きるんだろう」と語っています。つまり、テレビ局の外にいる人間だからこそ持つ新しい視点や可能性が期待されていました。

私たちはテレビ・ジャーナリズムについて考えるときに、どうしてもテレビ局がその主語になりがちですが、テレビ局の外で、非報道機関である組織や個人によってジャーナリズム活動が行われていることも忘れてはいけないです。外部の組織による番組制作活動=ジャーナリズム活動はテレビ・ジャーナリズムにとってどのような意義を持っているのでしょうか?このような議論が今後、必要だと思います。

そのため、今回のNNNドキュメントの取組と、その取組に対する詳細な説明はテレビ・ジャーナリズムにとってとても大事なところで、個人的にはとても評価したいと思います。ただし、番組最後のクレジット以外、ホームページにも制作者情報の記載がほしかったです。今回は大島監督がナレーターを務め、個人としての大島を前面に出して番組が作られ、私たち視聴者もテレビ局の外部の人間がこの番組を作ったということをよく理解できました。しかし、そうでない場合、いわゆる制作者の「署名性」というのはまだドキュメンタリーにおいて重視されていない気がします。

ここで、私がテレビ・ジャーナリズムにおいて、外部組織/個人の活動を議論する必要があると思った理由について、一つ、事例を挙げます。

現在、映画監督として活躍している是枝裕和がフジテレビの深夜枠「NONFIX」で『シリーズ憲法〜第9条・戦争放棄「忘却」』(2005年5月4日放送)という番組を作ったときに、以下のような出来事がありました。

僕は九条を選びました(シリーズ憲法〜第9条・戦争放棄「忘却」、〇五年五月四日未明放送)。確かちょうど自民党から憲法草案が発表されたタイミングで、シリーズの中にはその草案に否定的な回も当然あって、そのことを局が気にしてかなりもめたんですよね。放送までに。僕は当初の予定通り放送しましたけれど。それを放送するためにいろんな手を使って、血が流れているんですよ。…放送法を持ち出したり、番組の編集権と編成権の話をしたり、いろんな形で脅しをかけて「放送させないんだったら記者会見するぞ」っていう圧のかけ方を、今では考えられないことかもしれないですけども、それをしてようやく放送できました。(是枝・川端 2024: 43-4)

現在ではこのようなことはなかなかできなくなってきたと是枝も指摘していますが、今後のテレビ・ジャーナリズムを議論するときに、こうした周縁化された声を拾える必要があると思います。

最後に、話は戻りますが、『総理大臣を目指した人たち』の中で、個人的にとても好きな二つのシーンを紹介したいと思います。

1.加藤勝信氏にインタビューする際、彼は散らかっているデスクが気になって、「ちょっといいですか、これ片付けます」とカメラに向けて言いましたが、大島はナレーションで「加藤氏、綺麗好きのようだ」と語って、片付けの様子をそのまま放送しました。

2.泉健太氏はインタビュー取材の部屋を間違えて、最初はカメラがある部屋を通り過ぎました。その後、彼は間違いに気づき、編集点を作るのを意識して、わざとドアの向こうに戻って、何もないようにドアから入るところをやり直しました。ここも大島は「カメラに気を遣って、やり直してくれた」というナレーションを付けて、そのまま放送しました。

どちらも編集でカットされるだろうと思われるシーンがそのまま放送されました。ここは恐らく外部の人間で普段政治報道をしていない、大島監督ならではのセンス=演出ではないかと思います。とても面白かったです!

参考文献

  • 是枝裕和・川端和治,2024,『僕らはまだテレビをあきらめない』緑風出版.
  • 丹羽美之(編),2020,『NNNドキュメント・クロニクル 1970-2019』東京大学出版会.