拡張し続ける広告

こんにちは!初めてフィールドレビューを担当します、修士1年の陳です。先日、アドミュージアム東京の企画展「コレって広告?!展」に行ってきました!

アドミュージアム東京の常設展では江戸時代から平成時代にかけての広告史を振り返ることができますが、今回の特設展ではその中でも21世紀の広告にフォーカスし、「リアルの拡張」、「メディアの拡張」、「発信者の拡張」、「価値観の拡張」、という四つのテーマからこの20年間の広告の変化を回顧しています。そこで今回のフィールドレビューでは、特に印象深かった展示作品についてお話していきたいと思います。

最初に面白いと思ったのは、「メディアの拡張」のゾーンに展示されていた携帯ストラップです。「へえーこれも広告なの?懐かしい!」と思って目を引かれると同時に、正直これが「メディアの拡張」と何の関係があるのか?と、一瞬戸惑いました。

90年代後半から携帯電話とインターネットサービスが爆発的に普及する中で、江戸時代の「根付(武士たちが巾着などを帯に吊るす時につけた滑り止めのための留め具)」から由来するかのような携帯ストラップがガジェットとして人気を集め、日本特有のストラップ文化が形成されていきました。2000年代には企業が携帯ストラップを販促オマケとして活用する例も多く見られ、携帯の持ち主だけでなく周りの人の目にも触れる「拡張メディア」に変容して広告の機能を果たすようになったのです。ガラケーがスマホのツルッとしていてストラップをつける場所のないデザインに取って代わられたことから、このような携帯ストラップはほぼ見かけなくなってしまったのですが、IT技術が日常で当たり前の存在になり始めた時代の重要な証として大きな意味を持っています。

余談ですが、私の出身地の台湾も日本の携帯文化から影響を受けました。当時は、日本からストラップを通す穴が空いている携帯電話を輸入することが多かったため、似たような販促物のフィギュアストラップは台湾でも大人気の存在だったのです。

企画展でもう一つ深く印象に残ったのが、日清食品が2019年に公開した、カップヌードル「謎肉増量」CMです。私は以前にもこの面白いCMを見たことがありますが、謎肉頭の人がビル街の広場で跳び箱をしているといった広告表現やストーリーがあまりにも謎すぎて、趣旨がよくわかりませんでした(笑)。

2000年代後半、SNSの台頭によって誰もが情報発信できる時代が到来しました。発信者が拡張することで受信者の選択肢も増え、情報が溢れる世の中において、若者たちの共感を集めることは極めて困難になっています。若者は何を考え、何に共感するのかをヒアリングし、それをリアルタイムで反映させて「バズる」ような広告コンテンツを作ることに重点が置かれています。このような社会情勢を背景に、日清食品はCMに大胆な表現を採用することで若者たちの注目を集め、SNSが隆盛する時代にアジャストしようとしたのだそうです。一見するとカオスなシーンばかりですが、実は「発信者が拡張している」という社会の現状を反映した広告表現なのだと、今回の企画展を通して初めて知ることができました。

話が少し飛んでしまうかもしれませんが、去年6月にサントリーが、ChatGPTを活用して制作したWEB CM「やさしい麦茶、発芽大麦入りました。」篇を公開しました。このCMでは、キウイフルーツが空から降ってきたり、キャラクターが麦茶の蓋の上でスプリットジャンプしたりするような訳の分からないシーンで溢れていますが、AIが書いた脚本ということでネットで話題となっていました。このCMの登場は、近い将来、広告制作に関わっていく主体は人間だけではなく、非人間にも拡張していくことを予言しているのかもしれません。

企画展の最後に、「あなたにとって『広告』とは?」という問いがパネルに書いてありました。私は以前から「広告は社会を映す鏡」という認識で研究に取り組んできましたが、今回の企画展を機に、表現・形式だけでなく、広告の定義も新たな可能性に拡張していくはずだと意識し始めました。広告とは一体何なのか?今後研究でより多くの広告に触れていく中で、自分なりの新しい答えを見つけられたらと思います。