現実の鏡としてのゲーム

こんにちは。今回のフィールドレビューは修士2年の祝が担当いたします。皆様はゲームがお好きでしょうか?

私は小さい頃から、ゲームが大好きです。小学校フィールドワークの時、目的地に行く途中、クラスメイトとバスの中で「ポケモン」シリーズをプレイしながら、ゲーム内の戦闘や育成について熱い話で盛り上がったのは今でも覚えています。大学2年生の頃は、自らゲームをプロデュースした経験もあります。近年は、「3次元」の生活が充実していますから、ゲームから離れましたが、今年はコロナ禍のせいで、外に出掛けるのがほぼ出来なくなってしまったので、お休みの時はまた色々なゲームをプレイして過ごすようになりました。

この数ヶ月、私はゲームをプレイしながら、感じたのは「ゲームは、ただのストレス発散の場でも暇つぶしの場でもありません。人を様々な不思議な異世界に誘うことによって、他の形式では伝えにくいあるいは興味を引き出しにくい価値観やアイデアを交換するアリーナでもあります」ということです。また、ゲームの「現実性」も感じました。ここでは、最近ハマっている2つのゲームに関して少し話したいと思います。

1つ目のゲームは、「江南百景図」という中国明代の街づくりゲームです。まるで絹布の上に水墨で昔の風俗を描いた画面は、見る瞬間、画家・仇英の「清明上河図」などの古画を思い出させます。

(「江南百景図」のゲーム画面(上)と「清明上河図」(下))

「江南百景図」を開発することにした理由について、ゲームの開発者は、「このゲームを通して、中国テイストというのは、赤い壁に黄色い瓦、スケールの大きな北京だけではないということを世界の人々に伝えたい。長江下流地域の江南にも、情緒あふれる白壁に黒瓦の建物、小さな橋がかかる優美な川、どこか哀愁を感じさせる霧雨といった美しい風景がある」と説明しました(「中国明代の街づくりゲーム『江南百景図』が話題に」,2020)。このゲームはリーリスされた後、中国の若者の間で話題になりました。私のモーメンツ(微信(WeChat)のソーシャル機能)では、ほぼ毎日「江南百景図」に新たにダウンロードしフレンドを求める人がいます。しかも、元々中華文化に興味のある人に限らず、普段欧米・日韓の文化プロダクトしか興味を持たない人もだんだんゲームをダウンロードし始めました。

中国では1960年代~1970年代の文化大革命の中、数の多い伝統文化が廃棄されました。その結果、中国伝統の審美眼や習慣は大革命後の世代の若者たちの生活の中から消えました。その代わりに、欧米・日韓から輸入した様々な観念はメインストリームになりました。こういう社会背景のもとに、リリースされた中国明代の街づくりゲームはとても意味深いと思います。「欧米・日韓の文化も素敵ですけれど、私たちの文化の美しいところも世界中のみんなに知って欲しいです」という製作者の気持ちをよく伝えました。中華文化に関する講座なら、おそらく元々その話題に興味を持つ人しか参加しません。それに対して、ゲームは、「娯楽性」を持ちますから、より多くの人を「集められ」て、製作者の「言いたいこと」を「聞かせられ」ます。今後は教育の分野も、文化の交流と伝承の分野も、より活用する可能性があるではないか、と私は思っています。

もう一つのゲームは、「あつまれどうぶつの森」です。新型コロナウイルスの感染拡大により、各国で外出規制の措置が取られていたさなかで、人々が繋がりを求める需要と相まって世界的な大ヒットを記録しました。私は「あつ森」をプレイしていた時、一番印象に残っているのはゲームの中の可愛い動物住民たちです。住民たちは、例えプレイヤーがどのような人としても、善意でプレイヤーのことを受け入れます。任天堂は美しい風景と優しい住民で、トマス・モアが書いたような「理想郷」を作ってくれました。現実と離れている世界です。

しかしながら、このような「理想的社会」に関するゲームの中にも、「現実性」を感じました:

(1)現実社会の中のように、プレイヤーは住民たちの外見や人気に基づき、ランキング・ハイアラキーを作ります。自分が好きではない住民を虐め、島から追い出します。また、プレイヤーの間、アイテムを取引する時は、「道具を飛行機場の前から置きなさい」「他人の島の中の木を勝手にきりたおさないこと」のような仮想社会に適用する「社会ルール」が作られました。そのように、現実の中の「階級」やマナーは「理想郷」に輸入されています。

(2)「あつ森」は、元々、ゆっくりと生活を楽しめるのをUXとしてあげたゲームです。それにも関わらず、現実社会の中の競争に慣れたプレイヤーは「競争」「他人に勝ちたい」気持ちを「あつ森」に持ち込みました。例えば、中国では、淘寶網(中国の楽天のようなECサイト)に多くの店舗が初心者に入手しにくい道具を提供します。多くのプレイヤーに買われ、プレイヤーの「すぐ他人より強くなりたい」欲望を満足させています。

(3)香港のプレイヤーは、「あつ森」で中国政府を批判する行為をしました後、ゲームは中国大陸でバンされました。このような現実世界の政治的対立が「理想郷」にも影響を及ぼしています。

「あつ森」のようなゲームは、人々に癒やしをくれて、現実社会での悩みからしばらく逃げることを許します。一方、その流行になったことも、その中プレイヤーたちの行為も、社会現実に強く繋がっています。恐らく、どのようなゲームの中のどのような仮想世界でも、一定程度「現実性」は表れるでしょう。

以上は、ゲームに関する愚見です。実は、私は、専攻をメディア学にしたきっかけは、テレビやゲームなどのメディアは一見低俗かも知れませんが、アイデアを広げて、人に温みを感じさせる力を持つと感じたことです。将来は、その力で、少しでも世界にポジティブな影響を持てるメディア製品を作りたいと思います。そのためは、まず修論に向けて精一杯頑張って行きたいと思います!

参考文献
「中国明代の街づくりゲーム『江南百景図』が話題に」『人民網日本語版』、2020年08月27日、電子版(http://j.people.com.cn/n3/2020/0827/c206603-9739075.html 閲覧日:2020年9月4日)