NARA探訪記

今回のフィールドレビューは博士課程1年の松山が担当いたします。今年の1月末にアメリカ国立公文書館に行ったので、そのことについて書こうと思います。もう知っている方にはごく基本的な情報かも知れません。

アメリカ国立公文書館National Archives and Records Administration(通称NARA)は、Archives I(本館)がワシントンD.C.に、ArchivesII(新館)がメリーランド州のカレッジパーク内にあります。

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基本的に研究者たちが行くのは、新館のArchivesIIの方です。ここには、第一次世界大戦以降の紙媒体の資料や映像、写真が揃っています。ただここはちょっと不便なところにあり、ワシントンD.C.から少し離れた北東部に位置しています。それは、メリーランド大学が遊休地をNARAに無償提供したという経緯があるためです。ArchivesII にはワシントンD.C.からシャトルバスで行くことも可能ですが、今回私はもう一人の研究者の方とともに、空港でレンタカーを借りて行きました。ワシントン・ダレス空港からArchivesIIまで、約1時間かかります。

まず、何と言ってもここを訪れるにあたっての必須文献は、仲本和彦『アメリカ国立公文書館 徹底ガイド』(凱風社、2008年)でしょう。もはやNARAの「地球の歩き方」といった感じで、行き方や調べ方は言うまでもなく、食事や遊歩道の情報まで載っています。ちなみに、館内の人曰く、「日本人はみんなこの本持ってるねぇ」だそうです。

この『徹底ガイド』に詳しく書いてあるのですが、まずNARAに行ったら、セキュリティーチェックを受けた後に、初めての人はリサーチカードを作ります(1年間有効)。その後、ロッカーに自分のバックなどの持ち物をしまわなければなりません。カメラやパソコン、スキャナーなどの機器は例外で、持ち込みは許されます。『徹底ガイド』ではシリアル番号を控えると書いてありますが、私が行った時はなくなっていました。ノートや書籍も、許可されたものだけが持ち込めます。

NARAは基本的に軍が保有していた資料が中心となっているため、ほとんどの資料が著作権フリーです。そのため、紙・映像を問わずコピーし放題です。ArchivesIIの建物は全6階です。1階がロビー、2階が文書資料、3階が図面、4階が映像、5階が写真、6階が電子文書です。丹羽研なら言わずもがな、4階での作業が中心となります。

さて、4階に行きます。

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基本的にここの保存媒体はVHSかU-matic、もしくはフィルムです。最近ではデジタル化が日々進められ、一部がDVDとして利用可能です。各閲覧ブースにはそれぞれの再生機とともに、ご丁寧にもDVDにコピーする機械まで備えられています。空のDVDも係の人に言えばもらえます。ここはもはやコピーが前提になっているんですね。

さて、ここには何があって、どのように探すのか。

映像資料だけでも無数にあるので、それぞれのテーマ関心に沿って探す必要があります。映像の有無に関しては、日本から事前に調べていくことができます(http://www.archives.gov/research/arc/)。基本的にNARAの資料は「記録群(Record Group=RG)」として分けられています。RGは500番くらいまであるそうですが、たとえばRG80は海軍所有、RG111は陸軍、RG127は海兵隊、RG342は空軍というように決まっています。あるいはRG200-FCはフォード・コレクションと言って、フォードからの寄贈映像となります(ちなみにRG200番代は寄贈品を示します)。つまり、NARAの資料は「何が映っているのか」で分類されているのではなく、「どこがかつて所有していたのか」という所有者主体で分類されているわけです。これは意外に厄介で、あるテーマの資料を探しにNARAに行き、偶然その関連資料を発見するということはほとんどありません。VHSやU-maticの背表紙にもタイトルは基本的に書かれていません。つまり、NARAに行っても、HPで映像を検索して目当ての映像の番号をメモし、実物に触るという手順を踏むわけです。

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そして、次なる問題は、その映像がすぐにその場で見られるかどうか分からないことです。NARAの映像資料に対する向き合い方は3パターンあると言われています。それは、(1)Preservation、(2)Intermediate、(3)Reference copyです。

(1)Preservation(=保存)は言わずもがな、NARAの保存用で来館者は見られません。来館者が見られるのは(3)Reference copyで、そのReference作成のために(2)Intermediateが存在しているわけですが、たとえば欲しい映像が(1)Preservationしかなかった場合、NARAに(2)Intermediateを作って、(3)Reference copyを作成してもらえるよう頼むわけです。

この依頼は、一人当たり月10本まで可能だそうですが、作成に何ヶ月かかるか利用者には分かりません。なので、NARAに行けばすぐに全てが見られるわけではないのです。ちなみに私も帰りがてら、ある映像を注文しておきました。まあ、見るのが困難なものほど他の人が見ていない証拠ですので、研究者としては涎を垂らさなければいけないわけですが。ちなみに、NHKは『NHKスペシャル 映像の世紀』(1995-96)というアーカイブ・ドキュメンタリーを制作した際に、日本に関するほとんどの映像資料を持ち帰っているようです。その膨大な資料はいま川口のNHKアーカイブスに保管されていると思いますが、NHKというテレビ局の巨大さをあらためて感じさせられます。

なお今回の訪問で、私は専門である「テレビ番組」の有無についても少し調べました。付き添い調査ということもあり、十分には調べていないのですが、これに関しては私の博士論文ができてからのお楽しみということにしたいと思います(笑)。では、今回のフィールドレビューはこの辺りにします。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。