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朝ドラ『おちょやん』の魅力

作者: Morita Noriko | 2021年5月06日Posted in: フィールドレビュー

こんにちは!今回のフィールドレビューは、博士課程の森田がお届けします。私の研究領域は日本のドキュメンタリー映像なので、普段はこの分野について考えていることが多いのですが、じつは最近、珍しくテレビドラマに入れ込んでいます。

それはもうすぐ最終回を迎える「朝ドラ」こと、NHKの連続テレビ小説『おちょやん』です。「大阪のお母さん」として親しまれた名脇役女優、浪花千栄子の波乱万丈な人生をモデルにしたドラマで、杉咲花さんが主役・竹井千代を演じています。準主役は上方喜劇の立役者だった二代目渋谷天外をモデルにした天海一平で、成田凌さんが務めています。二人は子どもの頃から深い縁があって結婚し、二人三脚で大阪・道頓堀の演劇界を盛り上げていくものの、40代で離婚してそれぞれの道を歩んでいきます。

もともと大正から昭和の演劇文化が描かれているところに関心を持って見始めたのですが、気がつけば登場人物たちと物語の魅力に引き込まれ、毎朝の展開が待ち遠しくなっていました。なぜ自分がここまで『おちょやん』にハマったのか、理由を考えてみました。


※公式DVDパッケージ画像

それは、この物語が典型的な「良い」夫婦像や家族像ではなく、むしろそこから逸脱してしまう人々を描いているからです。母を早くに亡くした千代は貧しい実家から奉公に出されて育ち、大人になると父が金の無心に現れ、弟はやくざものになってしまいます。結婚相手の一平も母に捨てられ、父は芝居以外に興味がないまま亡くなり、演劇仲間の大人たちに囲まれて育ちます。お互いに孤独を抱えた二人は寄り添って生きようとしますが、一平と若い劇団員との間に子どもができ、千代は劇団を辞めてしまいます。

このように書くとドロドロした悲劇のようですが、このドラマはあくまで「人生ってそういうこともある」という態度で、一貫してユーモアと温かみを交えた喜劇タッチで進んでいきます。そして、どんな登場人物でも「悪者」扱いをせず、人と人がわかり合うことの難しさに向き合います。こうした形で社会的マイノリティの生き方が肯定されていることに加えて、千代と一平が芝居という表現活動を通じて孤独を乗り越えるアーティストとして描かれていること、私はそこに惹かれました。

また、ジェンダーという観点から見ても、千代は身近な男性の力によって幸せになるというわけではなく、また家庭の中だけに幸せを見いだすわけでもなく、常に自分の欲求や女性同士の連帯によって将来を切り開いていきます。彼女がバイブルとする戯曲『人形の家』は女性の自立を謳った物語です。離婚を経験し、実子を持たなかった浪花千栄子という人物をヒロインにすることで、とても現代的なドラマとなっている点も面白いです。

こうしたテーマ性に加えて、杉崎さんや成田さんをはじめとする出演陣の表現力の高さ、大阪ことばによる掛け合いの魅力、脇役も含めたキャラクター設定の巧さ、小道具の芸の細かさ、そしてさまざまな伏線を見事に回収していく脚本(『半沢直樹』の八津弘幸さん)の完成度など、語れることはまだまだありますが・・・このくらいにしておきます(笑)。あらためて、毎朝15分ずつ見ることで生活の一部となってしまう「朝ドラ」の仕組み自体にも唸らされる機会となりました。最終回までの残り1週間、しっかり楽しみたいと思います!