世界報道写真展 2017

今回のフィールドレビューは修士課程1年の武田が担当します。普段わたしは美術館で絵画やうつわなどを観るのが好きなのですが、先日は同じ美術館でも少し趣向を変えて、東京都写真美術館で開催中の『世界報道写真展2017』を訪れました。

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世界報道写真展は、世界報道写真財団の発足にともない、1956年から始まった報道写真の展覧会です。毎年、1月~2月にかけて主に前年に撮影された写真を対象にした「世界報道写真コンテスト」が開かれ、国際審査員団によって選ばれた受賞作品が「世界報道写真展」作品として、世界中を巡ります。

今回のコンテストは60回目にあたり、125の国と地域から5,034人のプロカメラマンが参加し、応募総数は80,408点、その中から選ばれた8部門45人の受賞作品が2017年2月13日に発表されました。残念ながら今年は日本人の受賞者はいませんでした。

大賞に選ばれたのは、トルコAP通信のフォトグラファー、ブルハン・オズビリジ氏です。その作品は、首都アンカラで開かれた写真展の開会式で、駐トルコ・ロシア大使が射殺された事件を捉えた一連の写真でした。トルコはシリアのアサド大統領に強く反対する一方、ロシアはアサド政権を支えており、非番の警察官であった犯人は、「アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな。神は偉大なり。」と叫んで大使に発砲したということです。

オズビリジ氏はその日、友人と会うために偶然、事件の現場となった写真展の会場を訪れていました。彼は、ロシア大使が来場していることを知り、いつか記事に使おうと考えてスピーチする大使を撮影し始めたのでした。そして事件は起こりました。

初め私は、オズビリジ氏の受賞について、幸運とは言えないまでも、フォトグラファーとして強運で、大きなチャンスをものにしたということだろう、という程度の印象しか持ちませんでした。

しかし、彼は、受賞に際してインタビューを受け、とても真摯な態度で次のように述べていました。

「(今回の受賞によって)人生がかわるこ

とはないでしょう。しかし、可能ならば新たな世代の模範とならなければならないという責任が増し、良質なジャーナリズムに対する道徳的責任を負うことになると思います。」

さらに、コンテストでは厳正な検証過程を経て受賞者を決めるということを知り、ジャーナリストとして大賞受賞にふさわしいと思えました。

展覧会全体を通して目立ったのは、イラクやアフガニスタンで繰り広げられる戦闘や爆撃による犠牲者を捉えた作品です。これらの国々で多くの犠牲者がうまれているニュースを私たちは絶えず耳にします。しかしそれを情報として受け取りながら、その人たちの実際の表情を思い浮かべることはめったにありません。情報が氾濫する今日でさえ、自分の日常とあまりに遠い状況は、実感を伴ったものにならないということかもしれません。そういった過酷な状況をいやおうなく世界中の人々の眼前に突きつけるのが報道写真といえるでしょう。

中東やアフリカの紛争の他に多く取り扱われていたのは、フィリピンのドゥテルテ大統領の強権的な麻薬撲滅政策の犠牲者や、ブラジルで流行したジカウイルスの影響を受けた子供、アフリカや中東からヨーロッパへの難民の窮状などのテーマで、2016年のニュース総ざらいといった様相でした。展覧会を通して観て、「そうそう去年そんなニュースがあった」と思い出すと同時に、日常の慌ただしさに取り紛れて、すでに忘れかけていた自分に驚きもしました。

いま世界中で起きていることを考え、そしてそこに関わる人々にはそれぞれの人生がある、という当たり前のことを改めて意識する機会となりました。

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《開催概要》
『世界報道写真展2017』東京会場
◯会期:2017年6月10日(土)~8月6日(日)
◯会場:東京都写真美術館(地下1階展示室)東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
◯休館日:毎週月曜日(7月17日開館、翌18日休館)
◯開館時間:10:00~18:00(木・金は20:00/但し7月20・21・27・28日、8月3日・4日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
◯公式サイト:http://www.asahi.com/event/wpph/