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テレビの台本を読む

作者: Inami Yoshitaro | 2014年11月15日Posted in: フィールドレビュー

今回のフィールドレビューは修士課程の井波が、テレビの台本について書かかせていただきます。演劇と同じように「一回性」の性質を持っていたテレビ番組は、生放送時代は基より、VTR用に磁気テープが登場して録画編集による番組制作が可能になってからも一回性という考えはそのままでした。

1970年代後半に入るまで磁気テープは、一本ウン十万もする高価な媒体であったそうで、いくらテレビ黄金時代とあっても、番組毎に購入し保管できた例は少なく、上書きされ、使い回されることによって、内容は消滅していきました。映像が消えた以上、そうした番組の手がかりを得るためには、製作者・関係者・視聴者の記憶か、台本をはじめとした制作資料から得られる情報が唯一となることになります。

台本は建築で言えば設計図に相当する重要な物で、前述のとおり、1980 年以前の番組は映像や音声が残っていることが少なく、放送台本を収集しアーカイブすることは、作品の内容や番組の制作過程、当時の文化などをうかがい知ることのできる貴重な資料であると断言できます。

台本から読み取れる基本情報はざっくりと以下になります。製作者の情報 ・出演者の情報 ・タイムコード ・シーン ・カット割り ・セリフ これ以外に関しては、ニュース番組、クイズ番組、歌番組、ドラマ番組、ドキュメンタリー番組など、それぞれ独特の形式や記述をとるため、一様に語ることは出来ません。

ここからはテレビドラマの台本についてを、参考例として、ラジオ東京テレビ(現・TBS)制作のテレビドラマ、『いろはにほへと』(1959)の台本を見てみたいと思います。

表紙には「タイトル」「制作会社」「放映局」「放映予定時間」「脚本家名」「スポンサー」などの情報が記されています。この台本は約300ページで、中を開くと、まず制作スタッフ(名前とポジション)と出演者(名前と役柄)が30ページにわたって連なり、そのあと250ページに渡ってドラマのシーンやセリフが展開されています。 私が古書店から入手した台本は、内容にかなりの書き込みがされたものでした。

VTR収録日、カメラ割の直し、役者の立ち位置、台詞の直し・加筆・削除、演出のポイントなど、手書きの図入りで事細かく指示が書かれています。この台本の、もともとの所有者が誰なのか不明なのですが、このような具体的記述を見ると、演出家か、演出補、もしくはカメラマンが使用したものではないかと推測できます。

また、台本を入手した際、セット図面も付属していました。 この図面を見てみると、1つの広いスタジオに7つの部分セットが組まれていることが判ります。 右下には「種目 『いろはにほへと』芸ドラ」「放送日時 11月20日10:00-11:45」「提供 サンヨー」「作者 橋本忍」「演出 岡本愛彦」「装置 坂上 服部」と記載。

7つのセットにもそれぞれ名前と番号が振られ、「16.松本家」「17.長ヤ一室」「18.温泉マーク旅館」「19.大崎家」「20.」「捜査二課」「およねの家」となっています。 「16.松本家」にはカメラポジションと役者の立ち位置についての書き込みが執拗に書かれており、このことから制作者の職人的仕事が垣間見える資料であると思います。

ドラマ収録後、こういった"使用済み台本"は、仕事書類よろしく、お役御免となって保存されずに破棄されるか、制作者、出演者、関係者の自宅にひっそりと眠っていることがほとんどです。刊行物でもないため一般的には流通しておらず、マニアや研究者のためのコレクターズアイテムとして、人気番組は高値で取引されているような代物でありました。

近年、テレビの台本は文化的な価値が認知され始め、2012 年に一般社団法人日本放送作家協会が収集していた5 万冊の放送台本を、一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムが引き継ぎ、ラジオ・テレビの草創期から1980 年までの27,000 冊は国立国会図書館に、1980 年代以降のもの18,000 冊は川崎市市民ミュージアムに寄贈となる動きがありました。

これにより、ようやく国や公立機関によって放送台本が保存、管理される体制が整い、現在は各機関が一般公開へのデータベースを作成して、公開・活用に向けた体制づくりが検討されている状況になっています。 なお、今回紹介した『いろはにほへと』は番組が現存しており、横浜にある「放送ライブラリー」にて無料で閲覧できます。

番組が現存している場合は、台本と映像を付き合わせながら、シーンやセリフの差異はないか、どのような演出をしたか、考察と観察をしながら視聴すると、活字では難しい表現やメッセージを制作者たちはどのように表わしているのか、複眼的な視点で、内容を読み解く愉しみが一つ増えるように感じます。