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コミュニティ・アーカイブの現在

作者: Matsumoto Atsushi | 2013年5月15日Posted in: フィールドレビュー

今年の春から博士課程に入学しました、松本篤と申します。新しい環境の中で、刺激的な毎日を送っています。さて今回のフィールドレビューは、自分にとって初めての投稿になりますので、自身のこれまでの研究課題や問題関心を簡単にご紹介し、フィールドレビューにかえさせていただきたいと思います。

近年、地域文化の記録・記憶を次代に継承することの気運が急速に全世界的に高まっています。この動向は日本においても例外ではありません。それに伴って、博物館(美術館)・図書館・公文書館などによって確立されてきた従来のアーカイブ構築の実践と理論にあらためて注目が集まる一方で、NPOなどを主体とした市民参加型のアーカイブ実践にも大きな期待が寄せられています。このような地域に根ざしたメディア実践は、東日本大震災を契機にますますその意義を高めており、わが国のアーカイブ実践における新しい潮流を形成していくことが予想されます。

しかし、アーカイブに関するこれまでの実践的研究・理論的研究の多くは、アーカイブ構築に関する専門的ノウハウや設備を有した専門機関の存在を前提とした、情報工学的アプローチや文化経経済的アプローチが多く、昨今の市民参加型アーカイブに対する方法論の提起(実践)や、理論的理解や位置づけ(理論)としては不十分であると言わざるを得ません。地域に眠る写真や映像メディア、モノなどを収集・デジタル化(保存)し、公開・活用をめざすメディア実践が萌芽期を迎えている現在、これらの取り組みをアーカイブ研究の中心に位置づけることが強く求められています。

そこで私は、市民参加型のアーカイブ実践を「コミュニティ・アーカイブ」と定義した上で、従来のアーカイブの方法論と視座を超えるための実践的研究と理論的研究を3つのアプローチから進めてきました。

⑴ 国内のコミュニティ・アーカイブに関する動向調査(基礎的研究)
この研究の目的は、全国各地で始動しているコミュニティ・アーカイブの事例を網羅的に把握することです。方法としては、文献調査と現地インタビュー調査、参与観察を併用しました。

⑵ 創発性に富んだコミュニティ・アーカイブの構築(実践的研究)
この研究の目的は、コミュニティ・アーカイブ実践におけるワークフローやツールを開発・運営し、パイロット・モデルを提案することです。方法としては、日本におけるコミュニティ・アーカイブ実践の先駆的存在であるNPO法人記録と表現とメディアのための組織(remo)に在籍しながら、アーカイブ実践の当事者として構築作業に従事しました。

⑶ イノベーションに資するプロジェクト・デザインの解明(理論的研究)
この研究の目的は、コミュニティ・アーカイブ実践の中で形成されるヒトとモノのネットワークやその配置に着目しながら、イノベーションの源泉やプロセスを明らかにすることです。方法としては、科学技術社会論(STS)と総称される学際的研究に依拠しながら、エフェメラリティ(短命性) という概念を用いて、プロジェクトのデザインの民族誌を作成しました。

上記の研究の特色は、<モノ>を研究対象とする図書館情報学・博物館学に、文化人類学・社会学的な視座と方法論(民族誌)を導入することによって、<モノとヒト>の関係性にまで研究対象を拡張させ、その枠組みをアーカイブ研究の中心に位置づけようとしているところです。 

ただ、現在の文化人類学・社会学的なメディア研究は、テクノロジーと社会の関係を考察する際、「ヴァーチャルなメディア実践(SNS、Twitterなど)」と「グローバリゼーション」との結びつきを参照することに偏重する傾向があります。それに対してこの研究は、これまであまり注目されていなかったコミュニティ・アーカイブという今日的現象に着目し、テクノロジーと生活世界の関係をローカルな視点から微視的に捉え直そうという狙いがありました。

そして最終的には、これまでの研究やこれに続くこれからの研究が、実践と理論、研究対象と研究者、科学技術と社会、文化と自然、を架橋するインターフェイス(結節点)の役割を果たすことをめざしています。

以上、これまでの自身の研究課題や問題関心についてご紹介いたしました。これまでの研究経過や現在の研究内容については、今後のフィールドレビュー内であらためてお知らせしようと考えています。乞うご期待。尚、ご関心のある方は下記をご参照ください。

■ NPO法人記録と表現とメディアのための組織(remo)
メディアを通じて「知る」「表現する」「話し合う」、3つの視点で活動する非営利組織。メディア・アートなどの表現活動を促すほか、文房具としての映像の普及、映像を囲む新しい場づくりなどを行っています。2002年大阪市浪速区(旧フェスティバルゲート内)にて発足。現在は住之江区北加賀屋に拠点を移し、「コーポ北加賀屋」を共同で運営している。松本は、研究員として在職しています。http://www.remo.or.jp/

■ 続・大子町8ミリフィルムを探しています!
remoでは、2005年より映像アーカイブ事業(AHA!)を企画・運営しています。これまでは大阪、福岡、仙台など大都市圏での展開でしたが、昨年度からは心機一転、豊かな自然が広がる茨城県久慈郡大子町においても実施しています。今後、都市部と過疎部との比較的実践・研究を予定しています。下記アドレスは、現地スタッフによるブログ。http://blog.livedoor.jp/daigo8miri/

■ コーポ北加賀屋
アート、オルタナティブ・メディア、アーカイブ、建築、地域研究、DIYサークル、NPOなど、分野にとらわれない人々や組織が集まる「もうひとつの社会を実践するための協働スタジオ」。複数の団体や個人の共同によって運営されています。remoも入居団体のひとつ。2009年4月、元家具工場の基礎のみを整え、稼働開始しました。 それぞれのオフィスのほかに、キッチン、サロン、ライブラリー、ギャラリーなど、300平米の共有スペースを有し、さまざまな取り組みが自律的に行われています。http://coop-kitakagaya.blogspot.jp/