「ザ・ベストテン」視聴レポ

東京で桜が満開となった2013年3月22日(金)、東京大学本郷キャンパス工学部2号館92B教室にて、テレビアーカイブ・プロジェクト第12回「みんなでテレビを見る会」が開催されました。今回は「ザ・ベストテンー音楽を絵にする仕事ー」と題して、美術デザイナーで元TBS美術センター理事、三原康博さんをゲストにお招きし、音楽番組『ザ・ベストテン』(1978-1989、TBS系列)を取り上げました。

『ザ・ベストテン』は、毎週のリクエスト葉書などで上位10曲を決定し、ランクインした歌手をスタジオに揃えて、カウントダウン方式で順次歌わせる生放送の歌番組でした。人気投票が出演者を決める重要な要素だったこの番組は、視聴者にとって旬な音楽の情報源として機能すると同時に、歌手にとっては自分の人気度を示すバロメーターとなっていました。

また、歌手が他のスケジュールでスタジオに来られない時は、「追っかけマン」と呼ばれるアナウンサーがその歌手を全国各地まで徹底的に追いかけ、現場中継を行いました。ランキング方式、豪華な舞台セット、報道のような中継、司会の黒柳徹子と久米宏による軽妙でにぎやかなしゃべりが人気を博し、最高視聴率41.9%を記録する伝説的番組となりました。

まず前半では、どのような番組だったかを理解するために、『ザ・ベストテン』の第318回 (1984年3月15日放送)のまるまる1本分を視聴しました。出演歌手は、松本伊代、柏原芳恵、中森明菜、田原俊彦、チェッカーズ、近藤真彦、わらべ、安全地帯、松田聖子、THE ALFEEの10組。

この回は10位から1位までランクインした全ての歌手が登場し歌うという貴重な回で、外からの中継あり、ハプニングありと盛りだくさんの回でした(普段は出演できない歌手が少なからずいるため、稀にしか10組すべて揃わない)。また、1位となった「星空のディスタンス」は尺が放送時間に収まらず、エンディングにまで歌うという、時間配分が厳しい回でもありました。

上映直後の会場からは「時代を反映したニュース的な番組で、番組の内容やセットデザインがニュースとして機能している」、「今の歌番組よりも、ハプニングがあったり、美術セットの作りがすごかった」といったコメントが寄せられ、中国人留学生からは「80年代に香港で同じスタイルの番組を見た事がある」といった意見も出ました。

後半は、三原さんデザインの舞台セットをピックアップして、ダイジェストで上映しました。ここでは、クロマキー合成技術を活用した「パープルタウン」(八神純子)、演奏するピアノの上に幻想的な世界を作った「異邦人」(久保田早紀)、パラシュート姿の演出が伝説的な「TOKIO」(沢田研二)、また、特に力を入れてデザインされたという「赤い絆」「プレイバックPartII」「謝肉祭」(山口百恵)を取り上げました。

「プレイバックPartII」のセットについて、三原さんは、

「フロアに並べられている赤いブロックは、曲のリズムに合わせて電飾が点いたり消えたりしますけど、車のテールランプをイメージしてるんです。真っ赤なポルシェが交差点でミラーをこすってしまう。その時、車のテールランプがバーッと広がる騒々しさとイライラする感じ、そういうのをイメージしています」

と述べ、曲から連想されるストーリーや解釈が、デザインの着想に繋がっていることを解説しました。その他にも、映像とトークを交えながら、演出のアイデアなどをたくさん語っていただきました。

さらに今回、三原さんが保管されている美術セットの模型を11点お借りし、会場に展示しました。模型は、実物から精密にスケールダウンされたもので、小さいですが映像や図面からでは分からない奥行き感や構造がよくわかるものとなっていました。

三原さんは現在でもデザイナーとして、テレビや舞台美術のデザインに精力的に活動されています。最新のお仕事としては、BSジャパンで放送中の『教えて!ドクター 家族の健康』のレギュラーセットをデザインされたそうです。

三原さんの著書『ザ・ベストテンの作り方』には、写真や図版とともに番組内容や製作秘話がたっぷりと掲載されています。テレビの製作の仕事にご興味ご関心がある方は、是非お読みになって下さい。

懇親会後、送迎する車中で三原さんと私で反省会をしました。話は様々にふくらみ、「今、みんなが見たいと思える音楽番組を作るとしたら、具体的にどうだろうか…」、「テレビらしいコンテンツとはなんなのか…」といったことを議論をしました。その中で、私の心に響いた三原さんの言葉を記しておきたいと思います。

「今、テレビはニュース以外全部VTR収録でしょう。だったらいっその事全部、”生”で番組を作ったらどうだろうね。……”生”ってことは、ホン(台本)にないハプニングが起きるだろうけど、視聴者が(テレビに、ベストテンに)暗に期待してるのは、実はハプニングが起こる事であって、映画みたいにキッチリ完成していない所こそ面白くてテレビ的であると思う」

*参考文献
三原康博著・テレビ美術研究会編『ザ・ベストテンの作り方』双葉社 、2012
山田修爾著『ザ・ベストテン』ソニー・マガジンズ、2008
『別冊ザテレビジョン ザ・ベストテン』角川書店、 2004