「初期のテレビCM」視聴レポ

2012年12月10日(月)、東京大学本郷キャンパス福武ホールにて、テレビアーカイブ・プロジェクト第9回「みんなでテレビを見る会」が開催されました。今回は「初期のテレビCMを観る」というテーマで、茨城大学の高野光平さんをゲストにお招きし、テレビ草創期に当たる1950年代から60年代の貴重なテレビCMを上映しました。

今回ゲストにお招きした高野光平さんは、1999年から現在まで、テレビCMの保存・活用を目的とした長期プロジェクトに取り組んできました。このプロジェクトでは、3つの老舗プロダクションの制作物についてデジタル・データベース化を完了させ、現在も様々なCMのデータベース化を行っています。

1950年代から60年代のCMというのは、従来、限られた名作や受賞作しか見ることができませんでした。しかしこのプロジェクトの成果によって、名作と呼ばれた作品以外のテレビ草創期のCMを閲覧することが可能となり、これまで以上に研究や活用の可能性が広がったと言えます。

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今回は極めて古い作品である1954年から55年のテレビCM、アニメーションやコマーシャルソングを多用したCM、米国占領下の沖縄のCMなど、その時代を表すような作品を数多く上映しました。また倉庫に保管されていたフィルムの中から、CM以外の貴重な映像(番組のオープニング、テレビ局のID、テストフィルムなど)、スーパーとワイプを利用したCM、5秒CMと呼ばれる非常に短いCMなど、様々な形式のCMを上映しました。

これらのCM作品はもちろん見ていて純粋に面白いのですが、社会学的資料としても大きな可能性を秘めています。当時の高度経済成長の表象やテクノロジーへの期待、幸せな家族像や西洋人の記号性など、様々な視点から読み解くことができます。もちろんここでいう社会学的資料とは、CMが何を表現しているのかということに過ぎません。視聴者がこれらのCMを観てどのように受け取ったかということは、私たちは知ることができないと、高野さんもおっしゃっていました。

このほか、アニメ史の空白を初期テレビCMが埋めることができるのではないか、という興味深い指摘もありました。戦前から戦中にかけて戦意高揚等のプロパガンダを目的とした様々なアニメーションが数多く制作されましたが、終戦から『鉄腕アトム』が始まる1963年までの18年間については、一部の劇場用長編映画を除きアニメの状況がよく分かっていませんでした。こうした従来のアニメ史の空白を、初期テレビCMに利用されたアニメーションによって埋めることができるのではないかというお話をうかがい、広告というメディアにとどまらない、テレビCMの可能性と研究対象としての重要性を感じました。

上映後は、参加者の方々から研究の進め方などに関する質問が数多く寄せられました。例えば映像アーカイブの研究者にとって共通の悩みである「出演者が誰かわからない」という問題に関しては、その世代の人間に聞くのが一番だという話など、大変参考になりました。高野さん、ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

さて、次回の第10回みんテレは大島渚を特集します。どうぞご期待ください。