「応援上映」に見る共同体の形成

こんにちは。初めてフィールドレビューを執筆します、修士1年の村井です。大学院受験を機に社会学を学び始めましたが、学びを深めていく中で、「これも社会学!?」とその包括範囲の広さに何度も驚かされました。今回は、私がハマっている「応援上映」を取り上げ、それがいかに社会学的に捉えうるのかを共有できればと思います。

応援上映とは?

応援上映とは、観客が声援や拍手、ペンライトなどを用いて積極的に鑑賞に参加する上映形式のこと。2016年に劇場公開された『KING OF PRISM』(通称キンプリ)が火付け役となり、『ONE PIECE FILM RED』や『THE FIRST SLAM DUNK』などの人気作にも続々と導入されています。

※キンプリの劇場最新作が公開中ですので、気になった方はぜひ足を運んでみてください。

出典:『KING OF PRISM』公式サイト

匿名性の高い「一時的な共同体」の形成

応援上映の最大の特徴は、見ず知らずの他者との間に、「一時的な共同体」が創出される点にあります。これは、社会学者のフェルディナント・テンニースの言う「ゲゼルシャフト(利益社会)」とは性質を異にする新しい共同体だと考えられます。

テンニースは、都市研究の先駆者。近代化の中で、血縁・地縁に基づく固定的かつ閉鎖的な共同体「ゲマインシャフト」が、制度・契約に基づく合理的かつ流動的な共同体「ゲゼルシャフト」に移行しつつあると指摘しました。(テンニース: 1887=1957)

応援上映では、共通の「趣味的嗜好」という極めて流動的で開かれた基盤の上に一時的な共同体が成り立っています。観客は作品やキャラクターに対する共有された愛着を媒介として、互いのアイデンティティを深く探ることなく、一定の規範(声援を送るタイミング、応援の対象など)のもとで協調します。

この匿名性の高さは、日常の社会関係から解放された「安全な空間(safe space)」を提供し、参加者が感情を自由に表現することを可能にしています。応援上映は、都市化や個人主義の進展によって失われつつある、公共の場での一体感や連帯感を一時的に回復させる機能を有すると期待できるでしょう。

このように、応援上映ひとつとっても、それが作り出す空間や影響について社会学的に考えることができます。ただし、一時的な共同体はコンサート会場などでも形成されるため、細かな違いを比較・分析してみると、さらに興味深い発見があるかもしれません!

参考文献

Tönnies, F., 1887, Cmmunity and Society (Gemeinshaft und Gesellshaft), Cambridge and New York: Cambridge Univercity Press. (杉之原寿一訳,1957,『ゲマインシャフトとゲゼルシャフトーー純粋社会学の基本概念 〈上〉・〈下〉』岩波文庫.)