ルビ(ふりがな)がもつ不思議なパワー

博士課程の蓼沼です。皆さんが新しい本を手に取るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。知人からおすすめされたり、SNSで見つけたりと、いろいろな経路がありそうですが、書店や図書館の選書フェアは、自分がまったくアンテナを張っていなかった本を教えてくれる、とても興味深い場です。先日、その中でユニークな展示を見つけたので、紹介します。

「ルビで広がる本の世界」フェア@丸善

今回取り上げるのは、「『ルビで広がる本の世界』フェア」。2025年5月16日から6月19日にかけて、丸善ジュンク堂書店の90店舗で開催されたものです。私が見たのは丸善丸の内本店の3階で、仕事で必要な本を買いに行ったとき、たまたま通りかかって見つけました。

3階エスカレーターを降りてすぐ、通路に面した場所にありました
丸善 丸の内本店で筆者撮影(撮影日:2025年6月6日)
丸善 丸の内本店の公式Xより
https://x.com/maruzen_maruhon/status/1923214933296029990

このフェアは、一般財団法人ルビ財団による、「ルビフル」な社会(「ふりがな(ルビ)」を適切に増やすことで、子どもや漢字に不慣れな人にも学びやすい社会)を目指す取り組みの一環として行われました。コンセプトは、「意図的にルビが振られた素晴らしい本を紹介する」こと。展示してあるすべての本について、著者や編集者にその意図を確認した上で、展示をしたそうです。

ルビは子ども向けに企画された本や雑誌に振られるもの、と思われがちですが、今回のフェアでは、そうしたイメージを超える、ルビのもつ力が示されていたように思えました。

ルビの有無で読書体験が変わる

ルビのもつ力が読み取れたのは、「その本になぜルビを振ったのか」を、著者や編集者が語る解説POPです。たとえば、国内300万部の大ベストセラーである『嫌われる勇気』に添えられたPOPには、次のコメントがありました。

丸善 丸の内本店で筆者撮影(撮影日:2025年6月6日)

ルビを振った理由: 嫌われる勇気は「新しい古典」をつくるプロジェクトでもあったので、「古典」の感じを意識した結果、ルビのバランスは必要最小限にしました。本書は「対話篇」という特殊スタイルなので、ルビが適切に入ることで青年と哲人の会話の「音(声)」がすーっと流れるように頭に入ってくることを意識しています。

『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健 / ダイヤモンド社


言われてみると、ルビが振られた文章を目で追うときは、知らず知らずのうちに頭の中で誰かの声が再生されている気がします。そう考えると、ルビの有無や量が読書という体験に与える影響は、決して小さなものではありません。本が与える印象や、一冊の中でどのパートが記憶に残るかを方向づける、重要な要素と言えそうです。

「生き方」カテゴリーにはベストセラーもずらり

この選書フェアでは、科学、歴史、芸術といったカテゴリーごとに、本や雑誌が展示されていました。私の研究テーマと関連が深い「生き方」というカテゴリーに展示されている本を確認すると、他のカテゴリーとはやや異なる、興味深い傾向がありました。

多くのカテゴリーでは、「お金」「法学」といった難しいテーマを易しく解説した本が含まれていたのに対し、「生き方」カテゴリーでは、ビジネス書コーナーでよく目にするベストセラーが目立っていたのです。易しく語ることが掲げていない、「普通の」自己啓発書が選書されている。このことから、自己啓発書は「ルビが多めに振られやすい」カテゴリーなのかもしれないと考えました。

丸善 丸の内本店で筆者撮影(撮影日:2025年6月6日)

ではなぜ、自己啓発書にはルビが多めに振られやすいのでしょうか。自己啓発書は、生き方という、普遍的なテーマを扱います。幅広い属性の人に届けるという出版の意義・目的においても、すべての人がターゲットになり得るテーマだからこそ、読者獲得の機会を最大化したい、というビジネス的な観点においても、ルビを多めに振るという判断がもたらすメリットは大きそうだと想像できます。そう考えると、ルビというのは、自己啓発(書)ブームの隠れた立役者なのかもしれません。

私は研究活動として多くの自己啓発書を読んできましたが、ルビという観点から啓発書を捉えたことはありませんでした。なお、先に紹介した『嫌われる勇気』も、カテゴリーとしては心理学・哲学に分類されていましたが、より良い生き方を指南する自己啓発書として扱われることもあります。

新しい視点をくれる選書フェア

選書フェアや企画展は、面白い一冊をおすすめしてくれるだけでなく、本に向き合う新たな切り口を提供してくれることもあります。今回のフェアはその意味で、とても学びが多いものでした。

ちなみに東大の図書館でも頻繁に企画展をやっています。自分の専門以外の書棚をくまなくチェックするのは大変ですが、このような企画展は動線上にあるので「ついで買い」ならぬ「ついで読み」ができて重宝しています。図書館に足を運べなくても、総合図書館の公式X(https://x.com/utokyo_genlib)で、企画コーナーの写真を紹介していることもありますよ!

参照元:
丸善ジュンク堂(2025)「「ルビで広がる本の世界」フェア」(https://www.maruzenjunkudo.co.jp/pages/cp-000018:最終閲覧日 2025年8月17日)

一般財団法人ルビ財団(2025)「丸善ジュンク堂書店の90店舗で、フェア「ルビで広がる本の世界」を5/16より開催!」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000123230.html:最終閲覧日 2025年8月17日)

丸善丸の内本店 X公式アカウント(https://twitter.com/maruzen_maruhon/status/1923214933296029990:最終閲覧日 2025年8月17日)