スマホなしの恋愛ってどうなるの?ーー『オフライン ラブ』を見て考えたこと

こんにちは!M2の陳です。夏休みに入り、いよいよ修論の執筆も本格的にスタートしました。資料とにらめっこする日々が続いていますが、そんな中での癒しとして、最近はリアリティ番組を見るのがちょっとした楽しみになっています。今回のフィールドレビューでは、最近見て特に印象に残ったNetflixの恋愛リアリティ番組『オフライン ラブ』について、少しだけ語ってみようと思います。

出典:Netflix ニュースルーム

この番組は、南フランスのニースを舞台に、日本人の男女10人が「恋愛」を目的に滞在しながら、スマートフォンなしの環境で出会いを重ねていくというもの。聞くだけだとよくあるリアリティ番組に思えるかもしれませんが、大きな特徴は、デジタルデバイスを一切使えないという設定です。SNSどころか、携帯の翻訳アプリすら使えない。しかも現地では日本語や英語も通じにくい環境。つまり、言葉も情報も制限された中で、人との関わり方が根本から問い直される構造になっているのです。

番組を見ながら一番驚いたのは、スマホがないだけで、こんなにも人間関係の「進み方」や「距離感」が変わるのか、ということでした。LINEでの駆け引きや、SNSでの情報収集が一切できない世界では、直接会って話すこと、目を見ること、相手のちょっとした表情の変化に気づくことが、唯一の「情報源」になります。その結果、ちょっとした出会いや偶然の重なりが、まるで運命のように見えてくる——。この「偶然を仕組み化」する番組設計がとても面白く、テクノロジーに囲まれた今の時代だからこそ成立する演出だなと感じました。

加えて、番組の雰囲気を大きく支えているのが、MC陣の存在です。『オフライン ラブ』では、小泉今日子さんと、お笑いコンビ・令和ロマンの二人がMCを務めています。特に令和ロマンは、2人ともがボケにもツッコミにも回れる器用さを持ち、どんな展開にも対応できる観察眼が魅力です。面白い語り口と的確なコメントが、番組のリアルな空気感を壊すことなく、時に鋭く、時に優しく物語に寄り添っているのが印象的でした。

少しだけ社会学っぽいことを言うと、この番組は現代における「メディアによる親密性」のあり方を逆照射しているようにも見えます。SNSやアプリで構築される恋愛関係が一般的になった今、「オフライン」という制限が、人と人との関係性をいかに再構成しうるのかを可視化する装置になっているのです。スマホがないからこそ生まれる不安、あるいは逆に、テクノロジーが介在しないからこそ感じられる安心感。それらはすべて、私たちが普段見過ごしている「関係の作法」や「出会いの演出」を浮かび上がらせてくれます。

SNSによって恋愛はより効率化され、マッチングアプリでは数ある選択肢の中から合理的に相手を選ぶ時代。一方、『オフライン ラブ』の世界では、出会いの偶然性やタイミングがすべて。誰かとたまたまご飯が一緒になった、夕日を見ながら少し話した、その小さな接点が、他の何よりも恋愛の「フラグ」になる。恋愛がデジタルのデータからではなく、完全に「場」や「身体」から立ち上がっていくような感覚があります。

もちろん、番組自体には脚本や編集の要素もあるでしょうし、「リアル」とはいえ一種の演出世界であることは前提です。それでも、この番組が提示する「オフラインの恋愛体験」には、今の時代だからこそ価値があるように感じます。テクノロジーに囲まれた日常の中で、「つながる」ことの意味やかたちを少し立ち止まって考えたい、そんな気持ちにさせてくれる番組でした。

ちなみに、リアリティ番組そのものを社会学的に研究することもできるようで、『リアリティ番組の社会学――「リアル・ワールド」「サバイバー」から「バチェラー」まで』(ダニエル・J・リンダマン著)という本が出ているそうです。私はまだ読んだことがないのですが、こうした番組がどのように社会の価値観や規範を映し出しているのかを分析しているとのことで、今後ぜひ手に取ってみたいなと思っています。

修論に追われる毎日のなかで、ふと立ち止まって「人と人との関係って、なんだったっけ?」と考える時間があるだけでも、すごく贅沢なことかもしれません。これからも研究の合間に、こんな「ちょっと社会学っぽいリアリティ番組鑑賞」を続けていこうと思います。