悲しみを語ってもいい!

こんにちは!博士課程の馬琳です。この間『生きて、生きて、生きろ。』というドキュメンタリー映画を見ました。今回のフィールドレビューでは感想を述べさせていただきます!

東日本大震災と福島原発事故の発生から13年が経ちまして、災害復興が進んでいるように見えます。一方、災害後のPTSDやトラウマに苦しむ被災者はまだ多くいます。『生きて、生きて、生きろ。』は被災者の心の傷に焦点を当てる映画です。映画の中、長年に福島で被災者の精神診察を行なってきた、精神科医師の蟻塚亮二先生と看護師の米倉一磨先生が登場し、二人が被災者の声なき声に耳を傾ける様子が描かれています。「被災者の心で何が起きているか」というセンシティブなテーマを取り上げることで、震災と原発事故の陰にある目に見えない事実を可視化しようとする挑戦的な作品だといえます。

私がこの映画を知ったのは、昨年度蟻塚先生の講義を聞いたことがきっかけです。蟻塚先生から、震災による家庭関係の悪化と離婚率の増加、子どもの虐待と不登校の深刻化、避難中の女性の性暴力被害の発生などの衝撃的な話を聞きました。さらに、震災のトラウマ的な体験がフラッシュバックすること、いわゆるPTSDが、地震直後ではなく、長年後に発症する被災者も多いそうです。震災と原発事故のもたらした精神的なダメージが想像した以上に大きいとわかりました。

講義で個人的に印象深かったのは、トラウマを乗り越えるために、十分に悲しみ、悲しみを分かち合うことが大事だという蟻塚先生の指摘です。しかし、被災者たちは震災や原発事故のトラウマを個人的な記憶だと思いがちであり、自分の経験を他人に共有しない傾向にあり、原発爆発の時の恐怖や避難の苦労などを十分に話し合っていないということもあります。講義を聞いて、「悲しみを語ってもいい」という文化の必要性をしみじみと感じました。

今回『生きて、生きて、生きろ。』を見ながら、去年の蟻塚先生の講義を思い出しました。この映画は、福島の被災者の方々が頑張って生きようとしても、喪失感と生きづらさがどうしても消えないという複雑な心境を映し出すことで、まさに悲しみを社会に共有するための試みではないかと考えました。なお、見に行った日、監督の島田陽磨さんは上映後に挨拶に来ました。取材した蟻塚医師と米倉看護師が上からの目線ではなく、精神的苦痛を抱く福島の被災者たちに寄り添いながら、心のケアを行うという姿を島田さんは高く評価しました。被災者の内面的な声を取り上げたこの映画から、島田さんも二人の医療従事者と同じように、取材の中「寄り添う」ことを重視するという意識が見えてきました。

映画はまだ上映中ですので、ご興味の方はぜひ見てください!