“レンタルDVDワンダーランド”

こんにちは。博士課程の森下です。今回がフィールドレビュー初投稿です。先日、丹羽先生から「森下さんって、カリスマレンタルDVD店員だったって聞いたよ」と突然言われました。「カリスマ」は前指導教授の水越先生が盛って伝えたのだと思いますが、昨年春まで6年半程、レンタルDVD店で週1-2回バイトをしていたのは本当です。イイ歳になってから、人生初めての接客業、レジ打ち、シフト勤務。この経験は本業の映画配給にも生かされましたし、結構楽しんでやっていました。

皆さんは今でもレンタルDVDを利用していますか?もしくは、いつまで利用していましたか?私自身は、働き始めた2014年の時点で全く利用していませんでした。言うまでもなく、ここ数年は動画配信サービスの普及が右肩上がり。コロナ禍でNetflixやアマゾンプライムビデオなどのSVOD(定額制見放題)サービスが急速に伸びた裏で、レンタルDVD店の大量閉店が加速しました。衰退の波は2010年代後半からじわじわと来ていましたが、不特定多数が接触するものを来店して貰って貸し借りするというコロナ禍に向かないサービス形態が決定打になったと推察しています。・・・といった表向きな衰退話はさておき、斜陽と言われるレンタルDVD店について、どんな人がどんな目的で利用しているのか、店員としての経験を元にメディア論的考察をしていきたいと思います。

映像コンテンツとの出会いの場は、映画館、テレビ、ネット上の無料配信・有料配信、映画祭や上映イベントなど色々ありますが、レンタルDVD店もその一つです。アルゴリズムによるレコメンデーションでは出会えないタイトルに、DVDパッケージという物理的メディアを通じて出会う場です。また、そこでは、店員つまりヒトもメディアとなって機能します。配信サービスにはない旧作でシーズナルな特集棚をつくったり、ジャンルに関係なくジャケットの色だけでまとめてみたり、思いがけないコンテンツとの出会いの場を作ることは、店員としてこの上ない楽しみでした(お客さんがオススメ映画を語り合う場も作り、これも楽しかったです)。

私が働いていた店舗は「映画コンシェルジュ」を売り物にしていたので、「なんかじわっと泣けるの、ありますか?」(こういう時には『ワンダー 君は太陽』など悪人が出てこないタイトルを選んでました)とか「5年くらい前ので、スキー場で雪崩が起きて奥さんがキレるやつ、あります?」(『フレンチアルプスで起きたこと』。秒で答えられました。笑)とか、検索できないボンヤリ情報からタイトルを見つけ出さねばなりません。この店員のオススメが好きとか、店員とちょっとした話をするために毎日のようにやって来るお客さんもいます。特に配信サービスを利用しない韓流好きのシニアの方々(利用が難しい人もいますが、配信だとまとめて見られず満足しない人も多い)はその代表格。「あの人は吹替があるものしか見ない」などお客さんの鑑賞スタイルを熟知している馴染みの店員が「次はこれとかどうですか?」と好みのタイトルをキープしておいてくれたりします。

実のところ、コロナ禍での2020年3月、私がいた郊外の店舗は過去最高益を記録。期限切れの会員証を持ったお父さんたちが子ども連れでやってきていました。遠くに遊びに行けないときに、近場の店でDVDを手に取りながら家族で一緒に一枚ずつ選んでいく行為は、コロナ禍の「ちょっとしたレクリエーション」になっていたのでしょう。レンタルDVD店は、単なる映像コンテンツとの出会いの場としてだけでなく、さまざまなコミュニケーションを生み出すメディアにもなっているのです。

NetflixがオンラインDVDレンタルサービスから始まったことはよく知られていることですが、 レンタルDVD、その前のレンタルビデオの歴史は、映画館とは別の物理的メディアによる映画文化の歴史と言えます。その辺りは、アメリカのレンタルビデオ店をみっちりフィールドワークした『ビデオランド レンタルビデオともうひとつのアメリカ映画史』(ダニエル・ハーバート著, 2014=2021,作品社刊)が詳しいので、ご一読を。下記画像出典元リンクにある、訳者の生井さんと日本の映像マーケットを知り尽くした元アスミック・エース竹内さんの対談が秀逸なので、あわせてぜひ。

今や世界的に絶滅危惧種のようになったレンタルDVD店。そんな中、2018年に行ったイギリス・ブリストルにある20th Century Flicksはまだ健在のようで、ホッとしました。

ブリストルの文化的ハブである映画館Watershedの人たちにモーレツに勧められて訪問

今年40周年を迎えたこの店は、狭い空間に21,000のタイトルがびっしりと並び、貸し切れる小さいシアターが2つあり、好みがはっきりしている(twitterを見るとわかる)4人の店員さんたちが迎えてくれます。「ここに必ずある」安心感を醸し出す物理的メディア(モノ)と偏愛を語る店員さんたち(ヒト)が、類のないコミュニティを40年間作ってきたのでしょう。永遠の疑問である「なぜこの店はこんなに続いているのか?」を、みんなで探っていく今月開催のランチタイムトークも楽しそうです。

昔、宣伝した映画を発見して、「日本のレンタルDVD店にはもう置いてないよ!」と言ったらニヤっとされた

映像コンテンツのリキッドな消費が当たり前になった今だからこそ、レンタルDVD店のソリッドなフィルム・アーカイヴは新鮮に映るかもしれません。街からどんどん姿を消していっているレンタルDVD店。もし見かけることがあったら、たまにはこの“ワンダーランド”を覗いてみるのはいかがでしょうか。