今回のフィールドレビューは、博士課程の松本が担当します。ここでは、私自身も深く関わっている、戦時中の子どもたちが書いた「慰問文」を再々発行するプロジェクトについてご紹介します。
今夏、『抹殺された日本恤兵部の正体』(押田信子著、扶桑社)が出版されました。本書は、日清戦争開戦と同時に設立された陸海軍恤兵(じゅっぺい)部に光をあてたものです。
恤兵部とは、「戦地と銃後を結ぶ絆」をキャッチフレーズに、国民から兵士慰問のための恤兵献金品を募集し、戦地に娯楽・嗜好品を送ったり、文化人、芸能人による慰問部隊を派遣するなど、戦争を後方で支え続けた部隊のことです(pp.2-3)。
「近現代史研究家、軍事史研究家らの間でも認知が少な」い恤兵部(p.3)。本書は、死蔵資料を紐解きながら「誰も知らない、しかし、その存在を無視してはあの戦争を語れない、兵士と国民に最も近い距離にいた恤兵部」のあり方が検討されています(p.4)。
日中戦争時、恤兵部が強力に推し進めていたのが、恤兵金と慰問袋の献納でした(p.88)。銃後の人々は、さまざまな日用品、写真といったものを慰問袋に入れ、そして慰問文を添えて送るのでした。
検閲が行われたという点では共通しますが、個人宛に送ることができた軍事郵便とは異なり、慰問袋は部隊宛に送達される仕組みとなっています。したがって慰問文の形式の多くは、誰に読まれてもよいように「兵隊さんへ」という書き出しとなっています。
*
目下、私は、所属するNPOの事業のひとつとして、この「慰問文」に着目したプロジェクトを進めながら参与観察を行なっています。それが、『慰問文集』再々発行プロジェクト、【なぞるとずれる|Trace and Slip】です。以下、概要です。
—
昭和14年、日中戦争真っ只中の夏—。
岐阜県加茂郡伊深村の子どもたちは、
中国に出征中の父や兄に宛てて
慰問文を綴りました[発行]。
昭和54年、慰問文の発行から40年後の夏—。
「伊深親子文庫」に集う母親たちは、
遺族から託されたその文集を一文字ずつ鉄筆でなぞり
村中に配布しました[再発行]。
令和元年、慰問文の再発行から40年後の夏—。
私たち『慰問文集』再々発行プロジェクトは、
80年前、40年前に起きたことをたどり直し始め、
来夏をめざして書籍(記念誌)として出版します[再々発行]。
詳細は、コチラをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=2&v=dZLLfDS2BZI
—
現在進行中の『慰問文集』再々発行プロジェクト。
その進捗をお話する中間報告会が東京で開催予定です。
–
《東京・下北沢》
アーキビストなしのアーカイブ
日 時:11月22日(金)20:00 – 22:00(19:30開場)
話し手:松本篤
会 場:本屋B&B(東京都世田谷区北沢2-5-2 BIG BEN B1F)
定 員:40名程度
参加費:前売1,500円(+ワンドリンク500円)、当日2,000(+ワンドリンク500円) ともに消費税別
申込先:http://bookandbeer.com/event/20191122_traceandslip05/
–
《東京・赤坂》
対談:誰かの記録をなぞること──言葉と写真をめぐって
日 時:11月25日(月)19:00-20:30
話し手:松本篤/佐藤洋一(早稲田大学社会科学学術院教授)
会 場:TOKYO LITTLE HOUSE(東京都港区赤坂3-6-12)
定 員:15名(予約制・先着順、申込みはコチラから)*定員を満たし次第、受付終了
参加費:無料(1drink制)
–
ご関心を持たれた方は、ぜひ会場まで足をお運びください。