『吉田直哉 映像とは何だろうか』展レポート

今回のフィールドレビューは修士課程一年の荒井が担当します。

年末に武蔵野美術大学美術館で開催されていた「吉田直哉 映像とは何だろうか テレビ番組開拓者の思索と実践」という企画展についてレビューします。

吉田直哉は、東大文学部の西洋哲学科を卒業後、日本でテレビ放送が開始された1953年にNHKに入局し、NHKのテレビドキュメンタリーの元祖である「日本の素顔」や大河ドラマ「太閤記」など数々の番組を手掛け、テレビの礎を築いた名ディレクターです。NHKを退いた後、武蔵野美術大学の映像学科の教授を務めた縁で、今回このような企画展示が催されたようです。

丹羽研究室のプロジェクトであるNNNドキュメント研究会で70年代以降のテレビドキュメンタリーを観る機会は多くありましたが、それ以前の作品についてももっと知りたいと思い、今回訪れてみました。

また、現在、私は「科学コミュニケーション論」という複数の先生が担当するオムニバス形式の授業を受講していて、ここ数回は東大総合研究博物館の特任教授で、展示デザインがご専門の洪恒夫先生が担当しており、「自身の研究に関する展示企画を立案する」という課題に取り組んでいます。それもあって、今回の展示は「メディア研究の成果を一般の人にひらく上でどのような工夫がなされているか?」という観点から見ても興味深い内容でした。

展示は①吉田直哉の作品を通時的に辿るゾーン、②映像表現技法の詳細な分析についてのゾーン、③吉田直哉が使用した脚本や著作、④吉田直哉の草稿という4つのゾーンで構成されていました。個人的に、吉田直哉というと「日本の素顔」のイメージが強かったのですが、それ以外のジャンルにおいても多くの功績を残していることを知り、そのマルチな才能に感服しました。また、総合雑誌の「中央公論」で映画監督の羽仁進と「日本の素顔」の映像表現を巡って論争を繰り広げたという事実からも分かるように、「テレビにしか出来ない表現」をまさに「開拓」しようとした吉田の姿勢についてもうかがい知ることが出来ました。

展示の構成についていえば、①から②へと至るプロセスでは、①で通時的に吉田が制作したテレビテクストとそのテクストに関連した著作の引用を対応させて展示し、それらを通覧した上で、②で「吉田直哉的」な映像表現について詳細な分析を試みており、展示会場を歩くに従いメディア研究の一つのプロセスを擬似経験出来るようになっていました。上述の授業課題を考える上でのヒントになりそうです。

また、ついでに美術館に併設している図書館と視聴覚資料のライブラリーであるイメージ・ライブラリーも見学しました。武蔵野美術大学ではそれら三つの施設が同一の建物内にあり、学生は日常的に美術館にアクセスできるようになっていました。特に視聴覚資料のライブラリーがここまで整備されていることは羨ましいかぎりです。さすが美大。

吉田直哉の作品は川口市のNHKアーカイブスなどで鑑賞出来ますので、興味のある方はぜひ一度訪れてみてください!